2015年9月23日水曜日

PFFアワード2015 Cプログラム~映画『嘘と汚れ』text大久保 渉

「鏡」


女。じじい。出てくる登場人物たちのすべてが大嫌いだった。

舞台は大道具会社の作業場。いつも仕事のミスをすっとぼけようとしている下っ端スタッフのじじい。忙しさからネチネチと相手に詰めよってまわっている現場の親方。その日のミスは自分のせいなのに、知らん顔をして過失をやり過ごそうとしている若手スタッフの女。

すべての責任をおっかぶせて、じじいをクビ切りにしてしまった親方に腹が立った。それを平然と黙って見送った女にも腹が立った。そして去り際に、女に向かって意味深な嫌味を言い残して出ていったじじいにも腹が立った。

その後、友達と会ってじくじく言い訳がましいことを喋っていた女にムカついた。その女に向かって分かったような慰めを説いていた男友達にもムカついた。そして同じ時間、会社にひっそりと戻って八つ当たり的に舞台美術を殴り壊していたじじいのすがたにもムカついた。


私はまるで、スクリーンを通して自分自身のすがたを見たような気持ちになってしまい、とにかく全てにイライラしてしまった。劇中、鏡を覗いて自分の髪の毛についたペンキの汚れを必死に落とそうとしていた女と同じように、私自分自身もスクリーンに映った登場人物たちのすがたを眺めては、日ごろの不甲斐ない自分を見てしまったかのような、しかし自分はそんな人間ではないという激しい動揺に見舞われてしまったのである。

街中で、偶然じじいを見かけて今更後ろめたそうに追いかけて行った女のすがたにイライラしてしまった。曲がり角でそんな女を待ち伏せて、優しいお別れの挨拶をわざとらしくしようとしていたじじいのすがたにもイライラしてしまった。

そしてその後かわされた二人のやりとりと、映画のラストへと向かって歩いていく女のうしろすがた。そこにどのような自分自身を見出せたのか。自分だったら、一体あそこで何ができたであろうか……。

日ごろの自分自身の汚れを思い知らされるような、登場人物=自分自身の嘘に怒りを覚えてしまうような、まるで鏡を見ているかのような映画であった。

自分の不甲斐なさ度:★★★★★

『嘘と汚れ』

2015年/日本/92分/カラー

関連レビュー:PFFアワード2015 Cプログラム 〜映画『嘘と汚れ』/『わたしはアーティスト』text今泉 健 
PFFアワード2015 Cプログラム~映画『嘘と汚れ』text藤野みさき

作品解説

「大道具会社が舞台。冒頭、老人と若い女性が和気あいあいと一緒に作業する長いシーンで幕開けする。その後も続く作業場の光景に観客を引き込んだうえで、小事件が起き、心理劇へと鮮やかに変貌する。」

出演

岡田瑞葉、真実一路、佐藤武史、青坂匡、野口航、高橋基史

スタッフ

監督・脚本・編集:猪狩裕子
撮影:深谷祐次
録音:宇佐希望
助監督:太田達成
制作:高橋基史、中島 光

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ぴあフィルムフェスティバル(PFF)
"映画の新しい才能の発見と育成"をテーマに、1977年にスタートした映画祭。いままでに数々の監督を排出している。現在では、公募した作品から入選作品を選出する映画コンペティション「PFFアワード」を中心に、特集上映や、トークショーなどのイベントも行われている。また、PFFアワードでグランプリ等の賞を受賞した監督はPFFスカラシップの権利を獲得でき、劇場用映画監督デビューへの道が開かれる。

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