2017年12月26日火曜日

第30回東京国際映画祭〜映画『勝手にふるえてろ』上映後Q&A

右から 大九明子監督、野正樹氏 (c)2017 TIFF

 去る11月1日。第30回東京国際映画祭における『勝手にふるえてろ』2回目の上映後に、大九明子監督と音楽を担当した髙野正樹氏を迎えて行われたQ&Aの模様をお届けします。
 
 24歳のOLヨシカ(松岡茉優)は、中学の同級生“イチ”(北村匠海)に10年間も思いを募らせている片思いこじらせ女子である。そんなヨシカは、過去の“イチ”との(ほとんどが一方的な)思い出を召還したり、絶滅した動物を夜通しネットサーフィンして調べたり、アンモナイトを購入して驚喜乱舞したりと、一人でもなんとなく充実した毎日を過ごしていた。そんな折、同僚の“ニ”(渡辺大知)から告白され、「脳内彼氏」“イチ”と「リアル恋愛」の“ニ”の間で、揺れるヨシカ。恋愛に臆病な彼女に幸せなハッピーエンドは訪れるのか……。
 主演・松岡茉優が最高に魅力的な本作は、東京国際映画祭で観客賞を受賞し、12月23日より劇場公開となった。映画祭の数ある作品の中から観客の心を掴み、多くの映画ファンが待ち望んでいた映画である。
 
 司会はコンペティションの作品選定を行った矢田部吉彦氏が務め、今作への愛情に溢れたムードで行われたQ&Aとなった。

(一部、作品の核心に触れている部分があります)

矢田部氏(以下、矢田部):
大傑作とわたしは思っているんですけれども、東京国際映画祭のコンペティション部門に出品して下さって本当に有難うございました。

大九監督(以下、大九):
有難うございます。

 大九監督は、「本日は数ある作品の中、『勝手にふるえてろ』をお選び頂きましてどうも有難うございます」という観客への挨拶に続き、客席で鑑賞した感想を語った。

大九:
わたくしもスタッフと一緒にチェックを兼ねてみる初号試写で鑑賞した時以来、久々に全編通して、しかも皆様と一緒にスペシャルな席で、汗びっしょりで観ておりまして、すごいスペシャルな体験ができたと大変感謝いたしております。有難うございました。


大九明子監督 (c)2017 TIFF

 高野正樹氏からは、

髙野氏(以下、髙野):
音楽を担当しました髙野です。今日は皆様お越し頂きまして有難うございました。皆様のリアクションが非常に気になりまして、皆様が笑っていたりだとか、そういうリアクションで「あっ、ここで笑いがおこるんだ」だとか、自分も一緒になって笑ったりだとか……。割と音を仕上げる時は音のことばかりを気にしていたので、「今日は自由に観れるかな」と思ったのですが、逆にリアクションが凄く気になってしまって、中々冷静に観られないなと思っております。今日はどうも有難うございます。

 と挨拶があり、作品への愛情深い思いが感じられた。

矢田部:
今日はこうしてせっかく髙野さんにお越し頂いていますので、監督に作品での髙野さんとのコラボレーションについてお聞きしたいと思います。やはりミュージックという単語を聞きますと感動のミュージカルシーンにも関わられたのかなと想像してしまうんですけれども、そこも含めてお聞き出来ますでしょうか?

大九:
仕上がった段階でミュージカルシーンとか、ちょうどその時期に大ヒット映画『ラ・ラ・ランド』(‘16)がございましたので、“『ラ・ラ・ランド』シーン”という風によく言われるのですが、前半が実はヨシカのイタいシーンだったということをご説明するのに、アスペクト比を変えたりモノクロに変えたりすることで世界観をガラっと変えることも考えたんですけれども、映画監督的なスタイルをみせるというよりは、ヨシカという人物をきちんとお届けすることに集中しようと。
そこで一番いいのは、お客様の思考を「あれ? これどうなっているんだ?」と思わせるのではなく、全部言葉で説明しようという結論に至りました。言葉で説明するにしても、なにかそこにメロディがあって、より観ている方の心に届く形にしようということで髙野さんにお願いしました。挿入歌・作詞作曲、のように言われているのですが、シナリオにあったセリフにそのまま(音楽を)つけて頂いた、という感じです。

髙野:
最初にこの話を頂いた際に、監督からこのようなシーンがありますと教えて頂きました。通常わたしがやっているのは作曲だけなので、詩にメロディをのせるということはあまりやっていない仕事でしたが、メロディが出来上がるのが凄く早くて、監督と最初の打ち合わせをした際には、もう出来上がっていました。
それから話をして、違うアレンジにしたりということもあったんですけれども、最終的に5パターンくらいになりそこから選んで頂きました。監督と共通した認識としてあったのが喋るように歌わせたいということ。あまりきれいにピッタリおさまるような形ではなく、どちらかというと喋っているところにメロディがのっかっているということで、ヨシカの心の中の劇場というか、そういうものを表せればいいなと思って作りました。


高野正樹氏 (c)2017 TIFF

 髙野氏と大九監督は今作以外(「あぁラブホテル」‘14/WOWOW、「想ひそめし〜恋歌百人一首〜」‘15/テレビ朝日)でもタッグを組んでおり、息がピッタリ合う今作の制作風景が想像された。
 矢田部氏が観客に質問のバトンを渡すと、場内からはすぐさまたくさんの手が上がった。

Q.1(男性):
とても楽しい作品を有難うございます。綿矢さんの原作(綿矢りさの同名小説『勝手にふるえてろ』)もあると思うのですが、(映画の)ヨシカってかなりやっかいなコですよね? やっかいさ加減というのを監督がどのように受け取って、主演女優にどのようなサジェスチョンがあったのか、ということをお聞きしたいと思います。

大九:
有難うございます。綿矢さんの文学の魅力というのは言葉のチョイスだったり、キレ味のよい文体とか、そういったところに尽きると思います。そこを最大に活かすということで読み込んでいくと、どんどんヨシカが愛しくなって、気がつけば「私、ヨシカじゃん」みたいな心境になっていきました。
やっかいというよりは、どうにかこのヨシカというなにかやっかいなものを、実際に現実社会にいるやっかいな皆さんにちゃんと届けたいな、という想いが凄くあって。「万人受けするようなことはおそらく無理だろうね」と最初に企画を持ってきてくださった白石プロデューサーと話していて、それよりはヨシカ的な人にきちんと届ける映画にしようという思いがありました。
原作を読み込むうちにどんどんファンになっていって、もうヨシカにイコールになってしまったので、ほぼ違和感はありませんでした。イン(撮影開始)の前に、松岡茉優ご本人と会ってゆっくり話す時間を持ったのですが、ヨシカに対する無理解みたいなものはお互いにそれほど無く、松岡さんは「あとは振り幅どの位にしましょうか?」という風に大分もう心の準備が出来ていました。
「こういう人っていますよね」とか「恋愛観はわたしはちょっと違う」とか、そういう話などもしました。やっかいであるということを、わたしたち二人はむしろ愛しちゃった感じがあると思います。

 企画・プロデュースの白石裕菜氏は、タイトルに惹かれ手に取った原作に惚れ込み、同時に映画化について動き始めた。そこには、
「綿矢りささんが描く、ヨシカのモノローグから垣間見える文学的な世界観と、一人の女の子が「イチ」と「ニ」という二人の男性の間で揺れ動くというエンタメ的な構造が映画向きだと感じたからです。キラキラした恋愛映画にはならないけれど、格好悪くてリアルな、だからこそある人たちにとって強烈に魅力的な恋愛映画になる! そんな思いから映画化に向けて動き始めました(プレスシート「Production Notes」より抜粋)」
という熱い思いがあった。
 大九監督の言う「ヨシカ的な人」、白石氏のイメージする「ある人たち」に向けられているという本作だが、劇場では笑いが何度となく起こり、男女問わず、観客がこの作品=ヨシカを受け入れ、笑い、感動している様子が強く印象に残っている。

矢田部:
主演のヨシカには最初から松岡さんでいこうと考えていたのか、ある程度オーデョションをするなどして松岡さんでいこうと考えられたのでしょうか?

大九:
もう最初からです。それまでも二年くらいちょこちょこ松岡さんとお仕事(本作は『放課後ロスト』('14) エピソード3「倍音」、TUBEのMV春夏秋冬4部作から生まれた映画『渚の恋人たち』('16)に続く3度目のタッグとなる)をしていまして。
ヨシカという人に惚れたんですけど、白石プロデューサーに「松岡さんでいきたいんです」と言われて、「そうだね!」と。
最初は誰ということも想定せず、普通に小説を読みました。

右から 矢田部吉彦氏、大九明子監督、高野正樹氏 (c)2017 TIFF 

Q.2(女性):
一昨日も観させて頂いて今日二回目なのですけれども、ヨシカ役の松岡茉優さんが観れば観る度に魅力的に思えてきたのと、ニ役の渡辺大知さんが、最初はとってもうざいなと思ったんですけれども、段々愛おしく思えてきて、とても楽しく観させていただきました。一昨日のQ&Aの時に、最後の主題歌(黒猫チェルシー「ベイビーユー」)についての質問があり、監督が「この映画は歌でいきたかったので出演している渡辺さんにお願いした」と言われていたんですけれども、最後の歌も含めて(渡辺大知が)とてもこの映画に合っているなということを、二回の鑑賞を通して感じました。最後の歌について監督から渡辺さんに「こういう風に作って」というような発注がなにかあったら、お聞きしたいなと思います。

大九:
大知くんは割とニに近いタイプでいらっしゃって、ものすごく頭でわーっと考えるんですね。「出来ました!」みたいなタイプの人ではなく、もの凄く時間をかけて悩んでいたので、「わたしが黒猫チェルシー(渡辺大知がヴォーカルを務めるロックバンド)にお願いしたのは、ヴォーカルをしているのがニを演じている渡辺大知だというのが最大の理由なんですよ。だから、ニとしての気持ちで素直に作って頂いたら、それが素敵な曲になるんじゃないですか?」と、ディスカッションしました。

Q.3(外国の女性):
非常に感動しました、有難うございます。映画の中盤にミュージカルシーンを入れることによって、(ヨシカが)非常に悲しいというか、そういうキャラクターに見受けられたんですけれども、怒っているところをよりフィーチャーしているように感じました。悲しみよりも怒りを重点的に描いている理由はなにかありますでしょうか?

大九:
自覚は無かったのですが、マグマのように溜め込んでいたあらゆる罵詈雑言を、叩き付けるようにシナリオを書いたので、それを受けとめた松岡茉優さんのヨシカは必然的に怒りのベクトルが強い感じになったのかもしれません。悲しむところのあの泣き具合も、「しくしく……というよりは爆発するように泣いてくれ、ということで、慟哭だよ」という話を松岡さんと凄くしたので、怒りという方向のニュアンスが強かったのかもしれないです。

Q.4(男性):
大変楽しく観させて頂きました。ヨシカは名前を覚えるのが苦手で、友達以外の人は名前を覚えられないというキャラクターですけれど、イチに名前を覚えてもらっていないというシーンで、すごいショックを受けていました。彼女にとって名前はどういう意味を持つのでしょうか?

大九:
彼女にとってというよりは、どの人にとっても、本当は名前というのは凄く大事なもので、個人的なもので尊重すべきものです。けれど世の中との距離を計りかねているヨシカにとっては、名前を覚えられないというよりもあえて名前を覚えようとせず馬鹿にしているというか。勝手にすぐあだ名をつけてしまって「わたしにとって必要のない情報ですから、わたしが呼び易いように呼びますよ」っていう、そういう人だと思うんですね。多分結構そういう方はいらっしゃると思うんですね、勝手に心の中であだ名をつけていたりだとか……。その罰が当たったというか、「お前も覚えられてないよね」というシーンなんです。そしてそれを改めて思い知らされて、打ちのめされるというシーンに、あそこはしました。

矢田部:
非常に腑に落ちます。有難うございます。


(c)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

Q.5(男性):
一昨日と今日と二度観させて頂きました。とても楽しい映画でした。松岡茉優という女優の魅力というか、ここが凄いなと思っているところはどういう点か教えてください。

大九:
そうですね……、集中力と努力。少しダサイ表現ですが、努力をあまり人に見せないところ。そういう昭和の気骨を持っているところが凄いと感じます。

 松岡茉優は『ちはやふる 下の句』(‘16)でクイーン(競技かるたにおける女性の日本一)である若宮詩暢役を演じ、その存在感のみならず原作コミックスファンも文句のつけようがないカルタをして、観客を魅了した。これまでの作品で彼女が演じてきた役柄自体にも、どこか努力を惜しまない人柄が滲んでいるようにも思われる。今作の、会社で経理として働くOLヨシカ役でも、華麗な電卓さばきを披露している。

Q.6(女性):
面白い映画で大変楽しませて頂きました。有難うございます。イチ役の北村匠海さんが、普段は歌って踊って女の子にキャーキャー言われているようなグループ活動(DISH//)をしていて、今回は残酷と言うか夢の無いような役柄を演じているのが衝撃的だったんですけれども、なぜ北村匠海さんにイチ役にお願いしたのかと、役作りに関するエピソードがあれば教えて頂きたいです。

大九:
わたしはDISH//を存じ上げないままお仕事をご一緒することになったのですけれども、プロデューサーから「こんな素敵な俳優さんがいて、イチにピッタリだと思います」というレコメンドを受けてどんな方かと思ったら、わたしが普段観ている映画に色々出演していて「ああ、あの役の方か。ああ、あの役も。」と思い当たり、若いのにカメレオンのように多彩な演技をするところに惚れ込んでお願いしました。今はDISH//、大好きです。

矢田部:
彼がどのようにして役にアプローチしたのか、もしご存知でしたら……。

大九:
どのようにして……、どうしているんでしょうね? 勿論事前にお話して作っていきましたが、割とわたしと読み解き方が同じだったんですね。「割と残酷な人間だよね、イチっていうのは」と話すと、「僕もそう思います」と。後は彼が作り上げてくれた、という感じです。

Q.7(男性):
原作者(綿矢りさ)と話し合われたり、何かエピソードがあったら教えてください。

大九:
事前に会うことは全く無くて、撮り終わった後にお会いしたのですが、大変喜んでくださいました。というのは綿矢さん曰く、「通常原作というのは削られることになる」けれども、「わたしの作品は増えて戻ってきた」と。要素は削られておらず、要素を邪魔していないのに、私が書いたシナリオでセリフが凄く増えていたり、キャラクターが増えていたり、「増えることばっかりで」と喜んでくださいました。

矢田部:
わたしも映画を観てから原作を読んだんですけれども、もの凄くびっくりしました。原作のエピソードがここまできちんと映画に描かれている映画化作品というのは中々ないんじゃないかなと思いつつ、パワーアップしているという。皆様もし読んでいらっしゃらなかったら、是非是非、読まれることをおすすめします。
最後に、監督と髙野さんから一言ずつ、お言葉を頂きたいと思います。


大九:
二日も観てくださった方がいたり、公開の前に観たいと思って一生懸命チケットを取ってくださった方がいたりと、色々伺っております。本日はどうも有難うございました。

髙野:
何回も通して観ているのですが、観る度に色々発見があったり、笑えるところや感動するところが違ったりしていて、今日僕は割と前半の方でウルっときてしまいました。何回も観ても面白い映画だと思っています。ですので、皆さんも何回か観て下さい。今日は有難うございました。


(c)2017 TIFF


 大きな拍手に包まれてQ&Aは終了した。
 観賞後に原作を読むと、原作者・綿矢りさの「増える」という言葉がよく理解出来る。細部のエピソードが違う場面で表現されていたり、ユニークな登場人物の面々が増え、本と映画両方に違うエピソードがあり……といった様子で、それぞれの世界観がお互いによってより広がったような感覚になる。
 おすすめは映画を観て、原作を読み、また映画を観る……というコースだ。そしてこの作品のタイトルについて、思いを巡らせてはいかがでしょうか?

(取材/文:岡村亜紀子)


(c)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会


『勝手にふるえてろ』
117分/カラー/日本語 / 2017年/日本

監督:大九 明子

キャスト
江藤良香(ヨシカ):松岡 茉優
ニ        :渡辺 大知
月島来留美    :石橋 杏奈
イチ       :北村 匠海

配給:ファントム・フィルム

作品解説
“脳内片思い”の毎日に“リアル恋愛”が勃発⁉ ふたりの彼氏(?)の間で揺れながら、傷だらけの現実を突き抜ける、暴走ラブコメディ!

TIFF作品紹介ページ
http://2017.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=29

公式ホームページ
http://furuetero-movie.com/

劇場情報
12月23日(祝)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほかにて、全国順次公開予定

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【執筆者プロフィール】

岡村 亜紀子:Akiko Okamura

某レンタル店の深夜帯スタッフ。
この作品を観て、なんだか我がことのように
笑ったり、泣いたり、自分の普段開けない柔らかいところがイタかったり……。
鑑賞中、気持ちも表情筋も忙しかったです。
『勝手にふるえてろ』というタイトルが、どこか優しく、
一方で、どこか厳しさを持って響きました。
是非、沢山の方に観て頂きたいです。

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