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2024年12月27日金曜日

東京国際映画祭2024〜映画『リュミエール!リュミエール!』トークショーレポートtext藤野 みさき

ティエリー・フレモー監督 ©️ 2024 TIFF

ジャン=リュック・ゴダールは「映画を通じて、他で観ることができないことを観ることができる」と言っていました。リュミエールたちも映画を通じて他では観ることができないことを映画として観にゆける、と言っています。そのことばは時を越えて、いま、皆さまの前に存在しています。映画の冒険は、まだまだ続くのです。――ティエリー・フレモー


 2024111日、第37回東京国際映画祭【ガラ・セレクション】部門にて、本邦初公開となる『リュミエール!リュミエール!』が上映されました。監督を務められたのは、カンヌ国際映画祭総代表・リュミエール研究所所長と、多彩な顔をもつ、ティエリー・フレモー氏。この世界に映画が誕生して、130年が経とうとしているいまだからこそ、映画の原点であり「映画の父」と呼ばれるリュミエール兄弟の遺された映画に想いをはせます。

 本作『リュミエール!リュミエール!』は、前作『リュミエール!』(2017年)の続編として制作されました。様々な映像が渦巻くいまの世界に、もういちど、「映画の原点」をみつめてみたい。フレモー監督から語られるリュミエール兄弟への愛と数々の映画人に胸を踊らせ、時代が変わっても変わらず存在することの美しさにこころをうたれます。映画を愛すること、観ることの「歓び」をあらためて想い出させてくれる、フレモー監督の珠玉のトークショーです。その内容を、全文掲載としてここに記します。

(上映日:2024111日(金)。東京国際映画祭公式YouTubeチャンネルアーカイヴ動画より。構成・文章:藤野 みさき)



Ⅰ いまを生きる人々にもリュミエールの映画を届けたい


——それでは早速ゲストにご登場いただきましょう。フランス・リオンにあるリュミエール研究所所長、カンヌ国際映画祭の総代表、そして本作の監督、脚本、編集、プロデュース、ナレーション、という五つの役割をおひとりでされたという、ティエリー・フレモー監督です。皆さま、大きな拍手でお迎えください。


客席からは暖かな拍手が贈られました。


——ティエリー・フレモー監督、まずはひとことご挨拶をいただけますか?


ティエリー・フレモー(以下TF):皆さま、こんにちは。今回が観客の皆さまに上映を行なうのが三度目の機会になります。ですので、まだ恥ずかしい気持ちもあり、皆さまの反応もどうなのだろうという思いもありましたが、(観客席より)先程「ブラボー!」ということばもいただいたので、これは良かったということなのかなと思い安堵しております。


――大変素晴らしい作品でした。それでは詳しく作品についてお伺いしてゆきますが、その前に簡潔に本作の紹介をさせていただきます。本作『リュミエール!リュミエール!』は、2017年に公開され、フランスでは13万人を動員し、世界の33ヶ国で公開された『リュミエール!』の続編です。映画の父と称されるリュミエールが発明したシネマトグラフで撮影された約50秒、1,400本のなかからあらためて110本を厳選し、4Kデジタルによって完璧に修復されました。そのより深く、美しく甦った映像を、フレモー監督が一本の映画として製作されました。前作の成功からどのような経緯で、この二作品目をつくることになったのでしょうか?


TF:私はリュミエールが遺された「遺産」といえる作品たちを、21世紀を生きる人々にも届けなければという責任感を日頃から感じております。私はリュミエールの映画に恋をしています。私と私のチームの皆は日頃からリュミエールの映画に慣れ親しみ、(映画を)観て知ることができますが、それは特権的なものになってしまいます。ですので、これらを他の方々にも届けなくてはならないという責任感を感じています。リュミエールがのこした作品の数については、カタログに掲載されている、オフィシャルにのこっているものとしては1,500作品ほどですが、カタログに掲載されていない作品を含めますと、もう500作品ほどあります。合計で、約2,000もの作品がのこっているのです。

ひとつめ(一作品目)の『リュミエール!』なのですが、こちらはどちらかというと、既に皆さまもご存じの作品をまじえながら、映画をご紹介してゆくという作品でした。この度製作した二作品目は、やはり一作品目の繰り返しになってはいけませんので、「新しいやりかた・魅せかた」を考えなくてはいけませんでした。ですので、本作は修復を経た映像の美しいものから選びました。そしていままでに約500本の映像の修復が完了しておりますので、まだ約1,500本もの作品が残っているのです。そして、リュミエールが映画を撮ったのが、1905年で終わってしまっています。ですので、当時の作品をいまの劇場によみがえらせておみせする、ということを考えました。なぜなら、リュミエールはシネマトグラフ最後の発明家にして最初の映画監督でもありましたので、そのふたつの側面をしっかりと紹介してゆかなければならないと考えました。


II シネマトグラフについて


――シネマトグラフという技術ですが、どのようなものなのかを簡単にご説明いただけますか?


TF:シネマトグラフというのは、小さく、とてもシンプルな機械です。それはフランス・リヨンにある「リュミエール美術館」でも展示されています。非常にシンプルな機械ですので、映写をするときもシンプルな美しさを捉えることができます。そして「シンプルなもののなかにある美しさ」というものが、リュミエールが遺した“魔法”です。現在あらゆる映画監督の映画を観ますと、リュミエールの「シンプルなもののなかにある美しさ」が継承されていることを感じます。

ピカソは「生涯を通じて子どもごころを忘れずに絵を描きたい」ということばをのこされていましたが、リュミエールに関しましても、純真無垢な、無邪気に撮っているかのようなところがあります。それこそが、詩的な映像の力強さに繋がっていると思います。リュミエールの描く詩的な部分は様々なひとの人生を描いています。それは、あなたの人生かもしれませんし、私の人生かもしれません。リュミエールの作品は、皆に通じる「ひとの生きている姿」というものを映しだしているのです。


Ⅲ リュミエールの後継者 紡がれる映画人


――この作品のなかでも、フレモー監督が解説をしておられましたが、「原点にして頂点」ということばが、私には大変響きました。まさにその通りだと思いましたし、後継者としてアッバス・キアロスタミや小津安二郎といった名前をお出しになっていましたが、いまの日本におけるリュミエールの後継者は、どのようなかたがいらっしゃるとお考えですか?


TF:リュミエールらしさ、足跡や渓流というのは、様々なかたから感じられます。カール・テオドール・ドライエル、ロベール・ブレッソン、小津安二郎、モーリス・ピアラなど……。かれらの作品にはなにか流れというものが繋がっているように感じられます。最近の日本の監督でしたら、濱口竜介、是枝裕和など、シンプルな映像のなかに美しさがあるという意味で、リュミエールから継承しているかなと思っております。ショットがシンプルであるがゆえに力強く、訴えかけるものがある、ということが素晴らしいと思います。いま、フランスの一部の映画やアメリカの一部の映画は壮大さを求めすぎており、すこし違う方向にいっていると感じます。しかし日本の映画には一部リュミエールらしさが継承されていると感じられます。

構図に関しましては、リュミエールVSジョルジュ・メリエス(以下メリエス)ですとか、ドキュメンタリーVSフィクションですとか、そのように考えるものではないと思っております。このたびご覧になってお分かりいただけたかと思うのですが、リュミエールもドキュメンタリーのようにただ記録するのではなく、フィクションにファンタジーと、様々なことをかれらはおこなっています。一方でメリエスはと言いますと、より幻想的な世界を求めていました。例えるならば、リュミエールはロベルト・ロッセリーニ、メリエスはフェデリコ・フェリーニでしょうか。リュミエールは、リアリズム、ナチュラリズムを求めており、世界の美しいものをありのままの姿で撮っていくということをおこなってきました。一方でメリエスは、世界にあるものを加工して違うものに創りあげてゆく、という手法をとっておりました。リュミエールはのちのジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメールといったヌーヴェルヴァーグの監督たちに繋がってゆき、メリエスはハリウッドに繋がっていったと思います。ですが、私はその両方を愛しています。リュミエールもメリエスも好きですし、ヌーヴェルヴァーグもハリウッドも好きです。そのふたつはけっして対立しているものではなく補完的なものです。それぞれの存在が一緒に存在するということ、それこそが映画なのです。


ティエリー・フレモー監督 ©︎ 2024 TIFF

Ⅳ キャメラの構図やショットについて


――本作を通じて、映画におけるショットの重要性をあらためて実感いたしました。そして面白いなと思ったのは、キャメラは世界中をまわっているわけですけれども、日本の(光景を捉えた)シーンでは、のちに「小津アングル」と呼ばれるローアングルも登場します。つまりはリュミエールのチームというのは、既にローアングルを発明していたということだと思うのです。かれらのキャメラの構図やショットを決める的確さについてはどのようにお考えですか?


TF:映画のナレーションでも言っているのですが、リュミエールは映画を撮るとき、基本的な質問を自分自身に問いかけていると感じます。基本的な問いかけというのは、キャメラを固定して撮るのでしたら、ここに置くのか向こうに置くのか、上から撮るのか下から撮るのか、というところから考えはじめます。(映画のなかで)日本人の家族が食卓を囲んで食事をとっている場面がありますが、かれらは畳のうえに座って食事をとっているので、あのときはどこから撮ろうかと考えたときに、ローアングルから撮影すれば、最もそのときの雰囲気・場所が再現できると考えて、あのアングルから撮ったのだろうと思います。ジョン・フォードがかつて「キャメラを設置するなら良い場所はひとつしかない」のだと、言っていました。ひとつ「ここだ」という場所があるのだ、と。かれは、食卓を囲むシーンというのは、いつもどこから撮影したら良いのか正解が見つからなかったのですが、その映像を観て、リュミエールはわかっていたのだと思ったそうです。当時のリュミエールの映像に映っている人々というのは、過去の先祖やむかしの人々たちです。これは日本人だから……ということではなく、私たちにも通じる本当に普通の人々なのだということに、いま観ても非常に感銘を受けるのです。


Ⅴ 作品の選定・デジタル修復について


――すでに約500本ほどの作品が修復されているとおっしゃられていましたが、何から修復をしてゆくのでしょうか? 通常ですと重要な作品からおこなってゆくこともあるかと思います。それらもフレモー監督が選んでおられるのでしょうか?


TF:まず、私のパソコンにはリュミエールの作品の約2,000本がはいっております。そしてちょくちょく観るのが好きなのです。ですが、なかには非常に状態の悪いものもあり、これは修復しなくても良いのかなと思う作品も幾つか存在します。その一方で修復をすればこれは素晴らしいクォリティになるかもしれないと推測できる作品もあります。私はこの映画を通じてリュミエールがのこした映画についてをより語りたいと思いましたので、その意向にそいながら、映画を選び、修復いたしました。ですが、映画を観てゆきますと、映画のほうから私に「ここにいるよ! 修復してこの映画につかって!」と語りかけてきてくれるように感じました。

そして今後、三つめ、四つめと、作品を製作する可能性ももちろんあるのです。ひとつめとふたつめのやりかた・魅せかたが違ってくるとも思いますけれども、この場をお借りして配給のギャガさんに感謝を申しあげます。おかげさまで日本の配給が非常にうまくゆきました。反響もよく、その後の期待値もあがってきましたので、違う作品を作らなくてはいけないなという気持ちでおります。(本作を含めて)ふたつの作品はいづれも過去を旅してまいりました。三つめの旅がしたいという方がおられましたら、是非私に言っていただけたらと思います。


フレモー監督のことばに、客席からは暖かな拍手が贈られました。


Ⅵ リュミエールが私たちにのこしたもの


――もうひとつ、私が訊きたいことがございます。本作の後半に75mmでルイ・リュミエールが撮影をしたふたつの作品が登場します。『翠宮の落成式』と『歩く歩道の光景』です。このふたつは劇場で初めて公開されるとお聞きしておりますが、本当にすばらしい作品だったと思います。この二作の魅力をあらためて教えていただきたいのと、この度なぜこのふたつの作品を入れたのかを、お伺いできますか?


TF:リュミエールは発明家であり、実験者でもありました。かれらは1930年代に独自の3Dの撮り方も発明しています。ですので、かれらは常に新しい発明を求めており、そこで75mmというかなり幅のあるフィルムをつかおうと思いついたのです。実際に75mmのフィルムを使用し、15作品ほど残しております。ですが、映画は撮影したものの、公開することができませんでした。なぜかといいますと、フィルムが非常に幅広く、それを綺麗に映しだすにはかなりの明るい照明が必要だったのです。ですが、ランプを近づけますと燃えてしまうという問題がありましたので、当時劇場で公開することができませんでした。ですので、75mmで撮影したものは存在していたのですが、いままで公開されることがありませんでした。いまはデジタルの修復のおかげで、大変綺麗なクォリティでお見せすることができました。75mmの作品をご覧になられた皆さまはとても特権的な方々です。

リュミエールは、当時「映画の未来」についてはあまり信用してはいませんでした。ですが、かれらは約2,000もの作品をのこされています。そして、ふたつの重要な現象があります。ひとつめは、リュミエールは映画でできる様々なことをおこない、のちの人々に継承してゆき世界に届けた、ということ。ふたつめは、かれらはカラー写真を発明したことです。実際1903年に「オトクローム」というカラー写真を発明しています。ですので、シネマトグラフを発明した方が、カラー写真も発明したことになるのです。それらが、私の出身地でもあるリオンから誕生しています。ですので、リュミエールがのこした「遺産」を皆さまにお届けする、という素晴らしいことができております。そして、リュミエールがのちの後継者たちに映画を継承させていった、ということが言えるのですが、「リュミエールが当時おこなっていたこと」をいま観て忘れてはいけない、思い出さなくてはならないと感じて、この作品を製作しました。

これはナレーションでも言っていることなのですが、本作の考えとしましては、一時間半の作品のなかでたくさんのこっている作品を集めてひとつの作品に仕上げる、という風に製作しております。リュミエールがのこした映画を、いま、またこのように映して皆さまにお届けするということができておりますけれども、かれらは映画(シネマ)という芸術をのこしただけではなく、劇場に足を運んで映画を観るという慣習ものこしているのです。いまでは、テレビやインターネット、配信プラットフォームやiPhoneなど、さまざまなところに映像が氾濫していますが、そのなかでも、映画はますます重要性を増してゆくと思います。


ジャン=リュック・ゴダールと、一度かれの故郷であるスイスで道を歩いていたときに、かれは「映画を通じて、他で観ることができないことを観ることができる」と言っていました。リュミエールたちも映画を通じて他では観ることができないことを映画として観にゆける、と言っています。そのことばは時を越えて、いま、皆さまの前に存在しています。映画の冒険は、まだまだ続くのです。


(text:藤野 みさき)


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© Institut Lumière 2024


『リュミエール!リュミエール』

原題:Lumière! The Adventure Continues

105分/モノクロ/フランス語/2024年/フランス


作品解説

多くの演出、撮影技法、撮影機材を開発した「映画の父」リュミエール兄弟。シネマトグラフで撮影された約1400本の作品のなかから110 本を厳選し、完璧に修復。『リュミエール!』(17)から7年、さらに映画の起源に深く迫り、映画の未来に想いを馳せる映画の原点を伝えるドキュメンタリーが完成した。映画史上最も偉大で、最も美しい映画のはじまりを彩るのは、リュミエール兄弟と同時代に生きたガブリエル・フォーレによる楽曲の数々。映画を愛してやまない全ての人に贈る奇跡の映像の数々が、約130年前の世界へ誘う――。(第37回東京国際映画祭公式ホームページ、映画『リュミエール!リュミエール』作品解説より。)


監督:ティエリー・フレモー

カンヌ映画祭総代表。リヨンのリュミエール研究所の所長を務める。リュミエールの作品(映画、写真)の保存と、初期のシネマトグラフ映画の復元に長年携わる。リュミエール兄弟を発明者としてだけでなく、映画史における最初の映画監督として称える映画『リュミエール!』(17)および続編の本作を製作した。(第37回東京国際映画祭公式ホームページ、映画『リュミエール!リュミエール』監督紹介より。)


スタッフ

監督/脚本/編集/プロデューサー/ナレーション:ティエリー・フレモー 

音楽:ガブリエル・フォーレ

エグゼクティブ・プロデューサー:マエル・アルノー

アソシエイト・プロデューサー:ナタナエル・カルミッツ(MK2)

プロダクション・マネージャー:マーゴット・ロッシ 

編集:ジョナサン・カヴシアル 

編集:シモン・ジェメリ 

映画史アドバイザー:ファブリス・カルゼトー二 

映画史アドバイザー:ジャン・マルク・ラモット

プロダクション:ソルティ―・ユージーヌ・プロダクション

プロダクション:リュミエール研究所


◉ 配給

ギャガ


劇場情報

『リュミエール!リュミエール!』は、11月22日(金)より、シネスイッチ銀座他にて全国順次公開中です。


◉ 『リュミエール!リュミエール!』公式ホームページ

https://gaga.ne.jp/lumiere2/


【第37回東京国際映画祭】

開催期間:2024年10月28日(月)~11月6日(水)【10日間】※会期終了


◉ 会場

【日比谷】:東京ミッドタウン日比谷/日比谷ステップ広場/LEXUS MEETS…/BASE Q/TOHOシネマズ スクリーン1/TOHOシネマズ日比谷 スクリーン12・13/TOHOシネマズ シャンテ/東京宝塚劇場/帝国ホテル

【有楽町】:ヒューマントラストシネマ有楽町/丸の内ピカデリー/丸の内ピカデリードルビーシネマ/有楽町よみうりホール/角川シネマ有楽町/TIFF有楽町駅前チケットセンター/TIFF有楽町駅前インフォメーションセンター

【丸の内】:マルキューブ

【銀座】:シネスイッチ銀座/丸の内 TOEI

【その他】:国立映画アーカイブ/TOHOシネマズ 日本橋


◉ 第37回東京国際映画祭公式ホームページ

https://2024.tiff-jp.net/ja/


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【執筆者プロフィール】

藤野みさき:Misaki Fujino
1992
年、栃木県出身。シネマ・キャンプ映画批評・ライター講座第二期後期受講生。現在長期療養中です。

 

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2023年12月28日木曜日

東京国際映画祭2023〜映画『ポトフ 美食家と料理人』上映後Q&Aレポートtext藤野 みさき

左から、トラン・ヌー・イェン・ケーさん、トラン・アン・ユン監督、ブノワ・マジメルさん©️ 2023 TIFF

誰かのために料理を作ること。それは、ひとつの愛の告白ですーーブノワ・マジメル


『エタニティ 永遠の花たちへ』が公開されて、早くも六年の月日がたちます。トラン・アン・ユン監督の最新作『ポトフ 美食家と料理人』は、私たちの暮らしのなかで最も大切な「食」についてを描いた作品です。本作は第76回カンヌ国際映画祭において監督賞を受賞。東京国際映画祭のガラ・セレクション部門にてジャパンプレミアを迎えました。上映後の質疑応答では、監督のトラン・アン・ユン、衣装・アートディレクターの、トラン・ヌー・イェン・ケー、俳優のブノワ・マジメルが登壇。食についてはもちろん、愛と美について、それぞれが想いを語りました。ここに質疑応答の模様を記します。

(上映日:2023年10月24日(火)。東京国際映画祭2023 公式YouTubeアーカイヴ動画より。構成・文:藤野 みさき)


 久しぶりの日本について


ーー何度か日本にお越しかと思いますが、まずはひとことずつ、ご挨拶をいただけたらと思います。トラン・アン・ユン監督、カンヌ国際映画祭での監督賞受賞おめでとうございます。


トラン・アン・ユン監督(以下TAH):本日はみなさまお越しくださってありがとうございます。この素晴らしいスクリーンで観られたことはとても幸運なことだと思います。


ーーありがとうございます。続いて、ブノワ・マジメルさんです。


ブノワ・マジメル(以下BM):こうしてここに来られたことをとても嬉しく思います。この作品を皆さまに紹介できることを、信じられないくらい嬉しく感じております。この作品は、私たちが喜んで製作した作品ですので、皆さまが気にいってくださったらいいなと思っております。


ーーありがとうございます。そして、衣装とアートディレクターを担当していらっしゃる、トラン・ヌー・イェン・ケーさんです。


トラン・ヌー・イェン・ケー(以下TNYK):皆さま、本日は来てくださって本当にありがとうございます。とても嬉しい気持ちでいっぱいです。前回、東京にきたのは6年前。『エタニティ 永遠の花たちへ』のときでした。『エタニティ 永遠の花たちへ』では、衣装とアートディレクターを担当しました。この度も同じく衣装とアートディレクターを担当したのですが、時代は同じでも、今回はまったく違うやりかたで担当しました。皆さまに気にいっていただけるととても嬉しいです。


ーー大変素晴らしい映画を、ありがとうございます。皆さまのご質問の前に、私より代表質問を幾つかさせていただきます。昨日レッドカーペットに参加されましたが、久しぶりの日本はいかがでしたか?


TAH:とても素晴らしかったです。観客の方々との距離もすごく近く、感じが良かったです。


BM:これほど近い距離で観客の皆さまと交流ができて、皆さまが歓迎してくださったこと。そのような方々とふれあえることを、本当に素晴らしいなと感じました。そして長く敷かれたレッドカーペットでしたので、とても楽しかったです。


TNYK:昨日レッドカーペットを歩いたあと「なんて素晴らしいレッドカーペットなのだろう」と、私たちで話していたばかりでした。そのときのことを繰り返すことにはなるのですが、私のキャリアのなかで最も素晴らしいレッドカーペットだと思いました。非常にラグジュアリーな感じがしましたね。


 食べものを主題にしたきっかけ


ーー私たちはこの作品の素晴らしい美術や世界観を堪能しました。「食べもの」を主題に映画を作ろうと思った理由やきっかけはなんでしたか?


TAH:原作に出逢ったのがはじまりでした。原作のなかで、登場人物たちが食べものや料理について語っている場面が素晴らしかったのです。それを映画にしたいと思ったことがきっかけです。原作からはすこし離れるのですが、私が歳を重ねたことによって、長く続いている夫婦関係やカップルの関係を、しっとりと描きたいと思ったのです。実はうまくいっている夫婦関係を映画で描くことは難しいのです。ですので、ちょっとした「賭け」でした。


ーー奥さまは最初にこのお話を聞かれたときはどう思いましたか?


TNYK:そのお話を聞いたときは挑戦だなと思いました。前作『エタニティ 永遠の花たちへ』と同様に、この作品も舞台が19世紀末のフランスだからです。私たちはベトナムの出身なので、驚いたこともありました。ですが、驚きと同時に、かれの描きたい「感情」というのは、文化を超越するのではないかと私は理解したのです。もちろん舞台はフランスですから、文化もフランスです。ですが「感情」というものは、世界共通のものだと思います。ですので日本の皆さまにも、この作品で描かれている感情を我がことのように感じてくださっていたら嬉しいです。


Ⅲ 役作りについて


ーー演じることは大変だったと思います。美食家で、料理をする場面では手元も映っていました。最初にお話を聞かれたとき、ブノワさんはどのように感じられましたか?


BM:私は実生活でも料理を作るタイプです。料理を誰かのために作るということは、それはひとつの愛の告白だと思うのです。それは好きな女性のために、あるいは友人のために。料理を作るということは、愛情の告白です。とはいえ(私は)皆さまがご覧になられたドダンのようなアーティストではありません。ですが、できるだけ、料理をする動作に「こころ」を込めようと思いました。そうしますと、直感的かつ自然に演じることができたのです。そして素晴らしい製作スタッフに囲まれていましたので、思っていたよりもシンプルに演じることができました。皆さまもご覧になられたように、冒頭の料理を作る長いシーンは、私も「素晴らしい」と思っております。まるでトラン・アン・ユン監督が振り付けをしたかのように、素晴らしいリズム感が生みだされていました。本当に、皆で作りあげた共同作業でした。


ーーこのシーンは本当に素晴らしかったです。ラストも含め、流石トラン・アン・ユン監督のカメラワークだなと感じました。


ここで代表質問は終了し、マイクは観客へと渡りました。


Ⅳ 音楽を使用しないこと


Q.1 すてきな映画をありがとうございます。料理は、芸術でもあり、エロスでもあり、希望でもあるのだなと感じました。映画のなかで、あえて音楽を使用せず、キッチンの音、風、鳥のさえずりなどの効果音だけだったのが印象的でした。その意図をお聞かせいただけますか?


TAH:音楽を使わないということは、確かにこのような映画ではレアだと思います。料理をするときというのは連続して動作がありますよね。その料理をするときの様々な音というものが非常に豊かなのです。ですから「料理をするときは音楽を排除するのだな」と自然と思えました。編集のときに音だけを聞いてみますと、「ここにはすでにこの作品のものがたりを想像するような音楽性がある」と判断したので、音楽を排除し、音の音楽性を強調しました。そして、愛の話を語っているときに音楽がないというのも、非常にレアなことですよね。


 ピエール・ガニェールの料理監修より学んだこと


Q.2 すてきな映画をありがとうございました。大変感動しました。ブノワ・マジメルさんに質問があります。料理をする仕草が非常にお上手でしたが、事前に何か練習をなされましたか? もうひとつ質問なのですが、昨夜ご自身のInstagramに銀座を歩いている写真をアップされていましたが、(お食事などに)どこか行かれましたか?


BM:そうですね。この作品には、ピエール・ガニェールという素晴らしい料理監修がついておりました。ですが、かれに逐一教えを請うたのではなく、かれの言っていること、話していることを聞き、どのようにするのかを観察しました。そして監督と一緒に、かれが話している素材の使いかたや、さわりかたを見ていたのです。そこに「気取り」はなく、「誠実」に素材と向き合っている姿勢を感じました。そして、素材をあつかうときの「リズム」というものを、かれは作り出されていました。そのリズムを学ぼうと、私は思ったのです。実は撮影のとき、かれの右腕の方がガイドをしてくださいました。「チキンのしたにトリュフを忍ばせる」なんてことはプロではないとできない業ですので、その仕草を見ながら、私も行ってみました。

皆さまに告白しますと、私は日本の洗練された料理に恋をしている、と言ってもいいと思うのです。実は何年も前に映画の撮影のために三ヶ月間日本に滞在したことがあります。そのとき東京、および日本には、ミシュランガイドの星つきレストランがたくさんあることを知り、堪能いたしました。Instagramでご覧になった写真は、「あそこも、ここも」という、あらゆるレストランに夢見心地な私の心情を象徴した写真ではなかったでしょうか。

もうひとつ、告白をしてもいいですか? この作品のお話をいただいた当時、私はほっそりとしておりました。ですので、トラン・アン・ユン監督に聞いたのです。「料理家という人物を体現するとき、俳優は頑丈で身体もふくよかにと要求されるのです」と。トラン・アン・ユン監督は「ほっそりしていてもいいよ」と、おっしゃいました。ですが、この作品の準備のために、料理を作り、ときには友人のために料理を振る舞い、さらに作っては食べて作っては食べてを繰り返しているうちに……撮影時にはいつのまにか私が10kgも太ってしまいました。私の提案は有限不実行になってしまったのです。トラン・ヌー・イェン・ケーさんが衣装を担当してくださっていたのですが、私の衣装はきつくなってしまい、何度も何度もお直しをしなければならず、本当に申しわけなく思っております。


Ⅵ 過酷な日数でのアートディレクションと衣装について


ーーその流れで、トラン・ヌー・イェン・ケーさんにお伺いしたいのですが、衣装からお部屋の内装まで大変素晴らしかったです。今回はどのようなところにこだわってお仕事をされたのですか?


TNYK:ひとつ、申しあげておきたいことがございます。実は、わずか25日しか準備期間をいただいていなかったのです。現代映画であっても、25日しか準備期間がないというのは大変にも関わらず、この作品はコスチューム・プレイでした。25日、私にとって、それは信じられないような挑戦でした。私に求められていたことは、シンプルかつ的確に、求められていることを提出するということでした。結果として、出来あがった衣装やインテリアをみてみましたら「とても豊かなものになっているな」と、思うことができました。衣装についてなのですが、コンセプトとして、衣装は白黒のモノトーンにしようと思いました。そして料理の部分に色彩を豊かに使っていこうと考えました。コスチューム劇で衣装を作ることの難しさというのは、「古めかしいな」と思われないこと、そこに「モダンさがある」ということを考慮しました。20年後、30年後に観てくださる観客のことを意識し、「全然古びていないな」と思ってほしかったのです。

先程「美しい映画ですね」と言っていただきました。それは大変嬉しいことですが、私たちが求めていたもの、それは美しい映画ではありません。正確に的確に仕事をしてゆけば、おのずと映画に美しさが宿る。そのように考えて制作しておりました。例えば、様々なシーンで的確に、あるいは的確な俳優の演技で。それらが積み重なってこそ、最後に美しさは生まれるのです。


Ⅶ メッセージ


最後にトラン・アン・ユン監督から観客に向けてメッセージが贈られました。


TAH:この作品は「愛する歓び」「食べる歓び」に満ちています。本作を通じて、日本の観客の皆さまに、「愛する歓び」「食べる歓び」を再確認していただけたら嬉しいです。


(text 藤野 みさき)

『ポトフ 美食家と料理人』© Carole-Bethuel © 2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

『ポトフ 美食家と料理人』

原題:The Pot-au-Feu [La passion de Dodin Bouffant]

136分/カラー/フランス語/2023年/フランス/ビスタ/5.1ch/字幕翻訳:古田由紀子/©️ 2023 CURIOSA FILMS-GAUMONT-FRANCE 2 CINEMA/Unifrance French Cinema Season in Japan 特別助成作品


◉ スタッフ

監督:トラン・アン・ユン

脚本・脚色:トラン・アン・ユン

アートディレクション:トラン・ヌー・イェン・ケー

撮影:ジョナタン・リッケブール

編集:マリオ・バティステル

美術:トマ・バクニ

衣装:トラン・ヌー・イェン・ケー

料理監修:ピエール・ガニェール

製作総指揮:クリスティーヌ・ドゥ・ジェケル

製作:オリヴィエ・デルボス


◉ 出演者

ジュリエット・ビノシュ

ブノワ・マジメル

エマニュエル・サランジェ

パトリック・ダスンサオ


◉ 配給

ギャガ


◉ 宣伝協力

ミラクルヴォイス


◉ 公式ホームページ

https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/


◉ 劇場情報


『ポトフ 美食家と料理人』は、12月15日(金)より、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほかにて上映中です。



【第36回東京国際映画祭】


開催期間:2023年10月23日(月)~11月1日(水)※会期終了

会場:

【日比谷】東京ミッドタウン日比谷/日比谷ステップ広場/BASE Q/TOHOシネマズ 日比谷 スクリーン5/TOHOシネマズ日比谷 スクリーン12・13/TOHOシネマズ シャンテ/東京宝塚劇場/帝国ホテル

【有楽町】ヒューマントラストシネマ有楽町/丸の内ピカデリー/丸の内ピカデリードルビーシネマ/ヒューリックホール東京/有楽町駅前チケットセンター/有楽町micro FOOD & IDEA MARKET/b8ta Tokyo

【丸の内】丸ビルホール

【銀座】シネスイッチ銀座/丸の内TOEI

【その他】国立映画アーカイブ/三越劇場/コレド室町テラス1F大屋根広場


公式ホームページ:https://2023.tiff-jp.net/ja/


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【執筆者プロフィール】

藤野みさき:Misaki Fujino
1992
年、栃木県出身。シネマ・キャンプ映画批評・ライター講座第二期後期受講生。

映画のほかでは、お掃除・断捨離、美容や自分磨きが趣味。FW・ムルナウをはじめとする独表現主義映画・古典映画・ダグラス・サークなどのメロドラマを敬愛しています。

 

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