「昼も夜も~その一点のまがまがしさによって~」
実際、亡くなった父親の後を継いだという中古車店の経営者としての瀬戸は、説得力がないようでいて妙な説得力のある姿で画面にちゃんとおさまっているのだ。そこには、彼をただ「イケメン」にはとどめておかない何かがある。おそらくそれは、瀬戸康史という役者の徹底して透明な表情の演技によるものなのだろう。
ある日、中古車店に一台の赤い車が乗りつけ、しおりという名の女が置き去りにされる。バスの本数が少ない事を知ったしおりは、1000円の手付金で強引に一台の中古車に乗り込み、勝手にその中で眠り始めてしまう。初めは無視していた良介であったが、段々と放っておけなくなり、その晩、彼女を車で送っていくことにする。車内でしおりは、昔死んだ犬の話を始める。良介は、聞いているのか聞いていないのか、まるで時が止まったかのように一点を見つめている。その時の彼の表情の素晴らしさは言うまでもない。それは、無表情故の「豊かさ」である。二人の間には、何か不思議な繋がりが出来始めている。この中編は、監督自身が語る通り、「小さなロマンティックな話」なのだろうか。
映画の後半で二人は車で海へ行く。ここでも良介は見事な表情をしてみせるのだが、それを断ち切るかのような「2014.3.11」の字幕が海のショットを前にして挿入される。劇中、しおりの「腐った魚の匂い」という呟きを何度も耳にしていた我々は、ここにきてやっと全てを理解することになる。
良介としおりは、無言の内に「震災」の想いを共有する。雨が激しく車を打ちつける。外の世界の現状は未だ厳しいままなのだ。しおりは姿を消し、良介は車を売り払う。
3ヶ月後、良介のもとにしおりから電話がかかってくる。彼女は自転車で日本中を回っているという。「呼びかけ」が届いた良介は、今は幸せだと返す。映画は、このまま瀬戸の「美声」とともに文字通り美しい終幕を迎えるかにみえる。だが、エンド・ロールの後、黒みの画面に響き渡るのは、ヘリコプターのまがまがしい音、ただそれだけである。「映画はキレイに終わりすぎてはいけない」、そう語る塩田明彦は、やはりどこまでも「残酷な」映画作家であった。
作家の残酷度:★★★★☆
(text:加賀谷 健)
11/24 有楽町朝日ホールで行われた『約束』『昼も夜も』塩田明彦監督Q&A
『昼も夜も』
日本 / 2014 / 69分作品解説
塩田明彦監督がウェブサイトのために監督した2本の短編の内の一編。第16回東京フィルメックスでスクリーン上映され、もう1本の『約束』(日本 / 2011 / 15分)も同時上映された。両作品を作るにあたり、ラフな脚本を元に少しづつ肉付けしてゆくという自主映画時代の方法論を適用したという塩田明彦監督の、原点回帰とも言える作品である。
出演
良介:瀬戸康史しおり:吉永淳
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