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2015年10月1日木曜日

東京国際映画祭~ラインナップ発表会~ text藤野 みさき



 アジアで最も大きな映画の祭典である、東京国際映画祭。2015年10月22日(木)の開幕に先駆けて、2015年9月29日(火)、六本木アカデミーヒルズにて、本年度の東京国際映画祭のラインナップ発表会が行われた。中でも、11年振りに日本映画が3作品出品されることで大きな注目を集めた、本年のコンペティション部門。画家である藤田嗣治の半生を、オダギリ・ジョーを主演に迎えて描く小栗康平監督最新作『FOUJITA』、小野不由美の傑作小説を初映画化した中村義洋監督、竹内結子主演の『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』、『ほとりの朔子』等の作品で知られる深田晃司監督による、人間とアンドロイドの交流を通じて生と死を鋭く問いかけた『さようなら』。上記の日本映画3作品に加えて、この発表会まで明らかにされていなかった、コンペティション部門の残りの13作品が一挙に出揃った。


(『FOUJITA』の小栗 康平監督)

残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-主演の竹内結子さん)

(『さようなら』主演のブライアリー・ロングさん、 深田 晃司監督)


まず本年のコンペティション部門では、全16作品中7作品と最も出品作品の多かったヨーロッパ映画。フランスからは、近年『最強のふたり』や『グレート・デイズ! 夢に挑んだ父と子』等、逆境を乗り越える実話が注目を浴びているが、今回の出品作品である『スリー・オブ・アス』も、激動の社会を生きる家族を描いた感動の実話物語だ。続いて、日本でも注目を集めたヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督『雪の轍』で知られるトルコからは、本作が長編第1作目となるムスタファ・カラ監督の『カランダールの雪』が選出。チェコからは、観客の胸を締め付ける見事な結末が注目の『家族の映画』、イタリアからは、暖かな笑いが会場を包み込むコメディ・ドラマ『神様の思し召し』が出品。オランダとデンマークからは、仏俳優であるグレゴワール・コランを主演に迎えて現代の戦争を描いた『フル・コンタクト』、戦時直後を舞台にした『地雷と少年兵』がそれぞれの戦争を通じて人間の姿を描く。そして「最も今年のコンペティションの中ではアート映画に仕上がっていると思います」と、プログラミング・ディレクターの矢田部吉彦氏も推薦のエストニア映画の『ルクリ』も見逃せない。



 続いて、アジアからは、中国・タイ・イランの3ヶ国の作品がノミネート。中国からは、初恋の女性を思い続ける少年を、現代の若手代表格のハオ・ジエ監督がコミカルに描いた『ぼくの桃色の夢』が満を持して東京国際映画祭に初出品される。タイからは、同じく初恋の追体験に胸が締めつけられる青春映画『スナップ』が選出。近年勢いを増すイランからは、結婚式を翌日に控えたある女性が死に、その真実を追うという、アスガー・ファルハディ監督『彼女の消えた浜辺』を想起させる『ガールズ・ハウス』と、注目の映画が並ぶ。




 最後に、アメリカと現在活気溢れる中南米の2ヶ国からそれぞれ1作品ずつが選出された。アメリカ・カナダ・イギリス合作、米国が生んだ名トランペット奏者チェット・ベイカーの光と影を、イーサン・ホーク主演で描いた『ボーン・トウ・ビー・ブルー』、75分間を見事な手腕で描いたメキシコの新星ロドリゴ・ブラ監督によるノンストップ・サスペンスの『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』。そして最後に、ブラジルから届いた、60年代を舞台にある女性精神科医を描いた実話映画『ニーゼ』と、こちらも色とりどりの映画が出品された。

 全86ヶ国、応募総数1409本の中から選出された、コンペティション部門の全16作品。その基準について、矢田部氏は「監督さんの個性を一番に重視し、なるべく多くの国、そして多くのジャンルを揃えようと考えております」と述べていた。「映画は世界に開いた窓である」という矢田部氏の言葉通り、多くの国々の映画がコンペディション部門だけでなく様々な部門から出揃った、本年で30周年を迎える東京国際映画祭。東京グランプリの行方だけではなく、スクリーンが映し出す、その一つ一つの映画との出逢いを、今から心待ちにしたい。



(写真左から 小栗 康平監督、中村 義洋監督、竹内 結子さん、『さようなら』主演のブライアリー・ロングさん、 深田 晃司監督)

(text、写真:藤野 みさき)




東京国際映画祭

28回を迎える東京国際映画祭(以下TIFF)は、1985年に日本ではじめて大規模な映画の祭典として誕生し、アジア最大級の国際映画祭へと成長した。アジア映画の最大の拠点である東京で開催され、世界中から優れた映画が集まり、国内外の映画人、映画ファンがあつまって、新たな才能とその感動に出会う交流する場となっている日本で唯一の国際映画祭である。
才能溢れる新人監督から熟練の監督までを対象に、世界中から厳選されたハイクオリティーなプレミア(世界で最初に作品を披露する)作品が集結。国際的な審査委員によってグランプリが選出される「コンペティション」には世界各国から毎年多数の作品が応募されている。
その初期から一貫して映画クリエイターの新たな才能の発見と育成に取り組んでおり、入賞した後に国際的に活躍するクリエイターたちが続々現れている。未見の若く新しい才能と出会える、映画ファン必見の映画祭である。


作品解説コンペティション部門16作品)
〜日本〜
『FOUJITA』
126分 日本語、フランス語 カラー | 2015年 日本=フランス
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=9

『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』
107分 日本語 カラー | 2015年 日本
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=31

『さようなら』
112分 日本語、英語、フランス語 カラー | 2015年 日本 
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=27

〜ヨーロッパ〜
『スリー・オブ・アス』
102分 フランス語 カラー | 2015年 フランス
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=1

『カランダールの雪』
139分 トルコ語 カラー | 2015年 トルコ=ハンガリー
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=5

『家族の映画』
95分 チェコ語 カラー | 2015年 チェコ=ドイツ=スロベニア=フランス=スロバキア
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=7

『神様の思し召し』
87分 イタリア語 カラー | 2015年 イタリア
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=15

『フル・コンタクト』
105分 英語、フランス語 カラー | 2015年 オランダ=クロアチア
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=11

『地雷と少年兵』
106分 デンマーク語、ドイツ語 カラー | 2015年 デンマーク=ドイツ
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=17

『ルクリ』
99分 エストニア語 カラー | 2015年 エストニア
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=25

〜アジア〜
『ぼくの桃色の夢』
100分 北京語 カラー | 2015年 中国
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=21

『スナップ』
97分 タイ語 カラー | 2015年 タイ
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=29

『ガールズ・ハウス』
80分 ペルシア語 カラー | 2015年 イラン
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=13

〜アメリカ・中南米〜
『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』
97分 英語 カラー | 2015年 アメリカ=カナダ=イギリス
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=3

『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』
75分 スペイン語 カラー | 2015年 メキシコ
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=19

『ニーゼ』
109分 ポルトガル語 カラー | 2015年 ブラジル
http://2015.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=23

公式ホームページ
第28回 東京国際映画祭
http://2015.tiff-jp.net/ja/
※2015年10月22日(木)〜10月31日(土) 10日間

第28回TIFF 上映作品一覧

劇場案内

2015年8月22日土曜日

無声映画上映会『カリガリ博士』text井河澤智子

「女弁士による無声映画上映会で『カリガリ博士』を観てきました」


 去る7月29日。

柏・キネマ旬報シアターで『カリガリ博士』活弁上映会を観てきました。

 プロの声優さんお二人。「やまがた屋」というグループで、無声映画にセリフをつけて上映する活動を行っていらっしゃるとのことです。

 とあるご縁で、わたしイカザワ、メンバーの岸本百恵さんとお知り合いになって、一度お伺いしたいと思っていたのです。

 さて、無声映画にセリフをつけて上映する、ということ。

 「上映」ではなく、あえて「上演」と呼ばせて頂きたいと思います。「人がその場で語る」映画。とっても贅沢だと思うのです。昔はそれが当たり前だったんですね。

 19世紀末。映画が生まれたこの時代、まだ映画に「音」はありませんでした。セリフは字幕、音楽は生演奏だったのです。

 初めて日本で映画が公開されたのは、明治29年(1896)の暮れのこと。

 日本人にとって映写機は、異国から来た不思議な機械でした。映画そのものも、とても短かった。なにがなんだか分からなかったことでしょう。そこで機械の説明や売り込みも兼ね、場を盛り上げる人があらわれました。これが、「活動弁士」の始まりです。

 もともと日本には、落語や講談、歌舞伎や浄瑠璃の語りなど、長い間に培われた話芸の文化がありました。やがて映画が長く複雑なものになってきますと、活動弁士は、字幕のセリフを語り、場面の状況を説明する役割も担うようになりました。

 活動弁士は自ら台本を書き、スクリーンの前に立ち、沢山の登場人物を巧みに演じ分け、さらに解説を加えます。まさに、八面六臂の大活躍。

 「春や春、春 南方のローマンス」(1918年日本公開『南方の判事』の名文句)…このセリフ、どこかでお聴きになったことはありませんか? 観客は、映画とともに、活動弁士たちの名調子をも楽しんだのです。

 しかし、音がついた映画「トーキー」の時代が到来すると、活動弁士たちは次第にその活躍の場を失っていきました。なにしろ、人がしゃべらなくても映画が全部しゃべってしまうのですから。

 とはいえ、現在においても無声映画の上映に取り組む方々は数多くおられます。いにしえの活動弁士のスタイルを現代に継承している方々や、自作の映像にご自身の活弁をつける映画監督も。また、個性的な声で活弁をつけ、同時に楽器の演奏までしてしまう方。あるいは、活弁はつけなくとも、独自の劇伴を生演奏で聴かせる上映もあります。トーキーが当たり前のこの時代、無声映画は、より自由な形で現代に生きているとも言えるでしょう。

 やまがた屋さんも、そういった、自由な形で無声映画を上演するグループです。

 今回の上演は、ドイツ表現主義映画の古典、ロベルト・ヴィーネ監督『カリガリ博士』(1921年日本公開)です。かつて、活動弁士徳川夢声も演じ、それを竹久夢二も観たといいます。

 やまがた屋さんの活弁は、お二人がプロの声優ということもあり、吹き替えのように演じられます。しかしそこは活弁、一人何役も演じます。演じながら、語ります。お二人での上演なので、途中で入れ替わりながらの上演です。

 ホラー映画の古典的作品とされている『カリガリ博士』。舞台美術は不安をあおるように歪み、計算されたライティングやカメラワークが効果的です。そして、俳優の演技も非常に様式的なものとなっています。およそ現実とはかけ離れた世界がそこにあります。

 しかし、これが不思議と、お二人が語る現代的な言葉遣いにとっても合うんです。

 そういえば、洋画の吹き替えやアニメのアテレコを聴いていると、どこか様式的なものを感じるような気がします。リアルでありながら、様式的。声優の演技と、1920年代の俳優の演技、相通じるものがあるのかもしれません。

 普段はチャップリン、ロイドなどコメディをメインに上演していらっしゃるとのこと。そういえばコメディの香りが漂う台本だと思いました。あちこちに細かなくすぐり、遊びの要素が感じられる。これは、映画の内容から考えると、ひょっとしたら好みが分かれるところではあるかもしれません。コメディの上演も是非観てみたいと感じた次第です。

 演じ分け、語り、聴かせ、観せる。

 本当に磨き抜かれた声の技術。しみじみと堪能致しました。

 活弁映画、面白い。観るのも聴くのも面白い。

 皆様、機会がありましたら、是非、やまがた屋さんの活弁映画、ご覧ください。



 https://www.facebook.com/katsuben.yamagataya?fref=ts

(text井河澤智子)

2015年8月7日金曜日

映画『この国の空』試写text加賀谷 健

「この国の空 荒井晴彦的野心に感動!」


「朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク」

 終戦70周年を迎えた今年2015年、終戦の知らせとなった昭和天皇の「玉音」を心にとどめている者も数少なになりつつも、多くの戦争映画、戦争ドラマが8月15日に向け制作された。そのどれもが「反戦」を謳うものであったが、日本を代表する脚本家である荒井晴彦の18年ぶりの監督作である『この国の空』では、「反戦」が叫ばれるどころか、「非戦争体験者」である作家の様々な戦争問題との「戯れ」さえ感じられた。

 結核で父親を亡くし、母親と二人で暮らす里子(二階堂ふみ)が、隣に住む妻子を疎開させ一人暮らしをする銀行家の市毛(長谷川博己)と近しくなり、しまいには体をあずけてしまい、女としての目覚めを戦時下に経験する。『この国の空』の物語をかなり大雑把に説明するとこんな感じになるだろうか。上映後、『共喰い』でタッグを組んだ青山真治監督と共にスクリーン前に登壇した荒井監督は、「ある女が隣の男とできちゃう。安倍批判でもなんでもない。ある意味で不謹慎な作品」と自作を短く説明されていた。

 長谷川博己が二階堂ふみからもらったトマトを頬張るシーンに同行したという青山監督は、冗談まじりに荒井晴彦の現場での監督ぶりを語って会場をわかせつつ、「これは、大変珍しい映画。ヴィシー政権の頃を描いたフランス映画のようで、あまり日本では、戦争はこういう描かれ方はされていない」と、この映画の「不謹慎さ」を肯定的に評価する。

 試写会終了後、外で青山監督と煙草をふかす荒井監督に「反戦映画」について伺ったところ、「反戦映画はやりたくない。いつも思うのは、そのたぐいの映画って誰に責任があるのって思っちゃう。で、いつも感動の悲劇みたいになってしまう。だから、そういう事はやりたくなかった」と、「戦争責任」に触れながら、終戦後から現在までの「天皇問題」について熱く語っていただけた。

 『この国の空』は、「8月15日」を描く事なく終わる。「反戦」の象徴とも言える「玉音放送」はやりたくなかったと言う荒井監督は、映画のラストに終戦前夜、夜雨に顔を濡らす里子のクロース・アップを選ぶ。それもただのクロース・アップではない。トリュフォーの『大人は判ってくれない』と見まがうほどの、ストップ・モーションへのゆるやかなズーム・アップなのだ。「映画だなという素晴らしい雨。雨を降らしたなという美しい雨」と、青山監督は静かな口調でラストシーンに触れ、トークショーのしめくくりとした。
 
 被写体に最後まで粘り強く向き合い続ける事。多くの演出家が戦争映画を作る時にその事を忘れてしまい、ついつい政治的イデオロギーに走ってしまう中で、「反戦」の一文字に縛られる事なく、「映画的なまなましさ」を露呈させる「映画作家」としての荒井晴彦の野心と強い意志を映画館で是非感じ取ってもらいたい。そして、劇場から出た後、その感動を「声高に」語ってもらいたいと切に思う。

(text:加賀谷 健)


映画『この国の空』

2015/日本/130分

作品解説
『さよなら歌舞伎町』『海を感じる時』『共喰い』などの脚本を手がけたベテラン脚本家・荒井晴彦の18年ぶりにメガホンをとった監督作。谷崎潤一郎賞を受賞した高井有一による同名小説を原作に、戦時下を生きる男女の許されない恋を、二階堂ふみと長谷川博己の主演で描いた。終戦も近い昭和20年。東京・杉並の住宅に母と暮らす19歳の里子は、度重なる空襲におびえながらも、健気に生活していた。隣家には妻子を疎開させた銀行支店長の市毛が暮らしており、里子は彼の身の回りの世話をしている。日に日に戦況が悪化し、自分は男性と結ばれることのないまま死ぬのだろうかという不安を覚えた里子は、次第に女として目覚めていくが……。

出演
二階堂ふみ
長谷川博己
富田靖子
利重剛
上田耕一

スタッフ
監督/脚本:荒井晴彦
原作:高井有一『この国の空』(新潮社)
ゼネラルプロデューサー:奥山和由
プロデューサー:森重晃
撮影: 川上皓市
美術: 松宮敏之
照明: 川井稔
録音: 照井康政
編集: 洲崎千恵子
助監督: 野本史生
制作担当: 森洋亮
ラインプロデューサー: 近藤貴彦
制作:『この国の空』製作委員会
制作プロダクション:ステューディオスリー
製作幹事・配給:KATSU-do
協賛:大和ハウス工業
配給:ファントム・フィルム

公式ホームページ:http://kuni-sora.com/index.html

劇場情報:8月8日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国ロードショー

2015年7月22日水曜日

フランス映画祭2015 映画『ヴィオレット』(原題) text佐藤 奈緒子

「トークショーゲスト: 監督マルタン・プロヴォ/女優エマニュエル・ドゥヴォス」


本作はフランスに実在した女性作家ヴィオレット・ルデュックの半生を描いた伝記映画である。ヴィオレット(エマニュエル・ドゥヴォス)は両親に愛されずに育った孤独を抱える女性。だが彼女には小説を書く才能があった。第二次大戦中は闇市で生計を立てながら地道に文章を書き溜め、いつしかボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)に認められるようになる。文壇は彼女をすぐには受け入れなかったが、誰かに認められたい、愛されたいと願うヴィオレットはもがき苦しみ、自身の恋愛を赤裸々に描いた小説を発表することでようやく世間に認められていくのだが……


女性が自立することの難しかった20世紀半ば、父親に認知されず母親の愛に飢え、夫にも恵まれないヴィオレットは自立を強いられる。その過酷な環境や葛藤は結果として彼女の才能を育んだ。敷かれたレールのない人生が彼女をつまらない常識から解放し、愛への渇望が奔放な恋愛体験へと結びつけた。思想もビジョンもない彼女が結果的にフェミニズムの礎となったボーヴォワールにたどり着く奇跡的な巡り合わせは、ヴィオレット自身が切り開いた道でもある。その生き様はしかし、一言で言って痛い。自分を受け入れることのない男や女に期待して纏わりついて追いすがる、 結果自分を傷つける行動にばかり走るヴィオレットは、さながら自傷癖のある女。しかし彼女のなりふり構わぬ愛への渇望を痛々しく感じるのは、自分の中の小さなヴィオレットが同じ痛みを感じるからかもしれない。


マルタン・プロヴォ監督は映画『セラフィーヌの庭』に続き、再び、ひたむきで清らかな魂によって徐々に才能を認められていく女性アーティストを描いた。上映後に催されたトークショーで、監督がボーヴォワールをヴィオレットの「父親代わり」と評したのは興味深い。庇護者となる男性がいないヴィオレットの生き方がボーヴォワールを引きつけ、彼女の思想にも少なからぬ影響を与えたとも考えられる。ヴィオレット役にエマニュエル・ドゥヴォスを選んだことについて監督は「最初から彼女しかいないと思っていました。最初に、顔を醜くしてもいいかと聞いたら、女優にとってはプレゼントのようなものだと答えてくれました」と言っている。
確かに本作のエマニュエルは美しくない。もともと一度見たら忘れられない印象を残す彼女だが、どこをどうメイクしたのか、本作では顔にコンプレックスを持つヴィオレットに説得力を与えている。そのギャップもあってか、同じくトークショーに登壇した今年のフランス映画祭の団長であるエマニュエルの美しさには驚いた。作中のヴィオレットとはまったく異なる優雅で気品ある姿はまさにフランスの大女優の名にふさわしい。
彼女は演じた役について「男でも女でも絵画でも文学でも、アートで苦悩を乗り越える姿が素晴らしいと思います」と語った。

監督と女優が口を揃えて言っていたのは、現在では忘れ去られてしまったヴィオレット・ルデュックという作家の文章が非常に美しいということ。もし日本語訳で体験できるならぜひ一読してみたい。

痛さに共感度:★★★☆☆
(text佐藤 奈緒子)



『ヴィオレット(原題)』
原題:VIOLETTE 
フランス映画|2013年|仏語|カラー|1:1.85|5.1ch|139分|DCP
日本語字幕:松岡葉子

作品解説
『セラフィーヌの庭』でセザール賞最優秀作品賞に輝いたマルタン・プロヴォ監督が、“ボーヴォワールの女友達”と呼ばれた実在の女性作家、ヴィオレット・ルデュックの半生を描く。私生児として生まれたヴィオレットは作家モーリスと出会い、やがて小説を書き始める。ボーヴォワールを訪ね才能を見いだされるが、ヴィオレットの小説は大きなスキャンダルになりパリ文学界に大きな衝撃を与える。当時の社会に受け入れられず、愛を求める純粋さゆえに傷ついた彼女は……。生涯にわたり続いたボーヴォワールとの関係を中心に描かれ、背景となる40〜60年代の文学界の様子や、戦後パリの新しい文化の胎動も見所の一つとなっている。

出演
エマニュエル・ドゥヴォス
サンドリーヌ・キベルラン
オリヴィエ・グルメ
ジャック・ボナフェ
オリヴィエ・ピィ

監督:マルタン・プロヴォ

作品情報(フランス映画祭2015の作品ページより)
http://unifrance.jp/festival/2015/films/film08

劇場情報:12月岩波ホールほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
© TS PRODUCTIONS - 2013

フランス映画祭2015
6月26日(金)~29日(月) 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)にて開催!
公式サイト : http://unifrance.jp./festival/2015/

関連レビュー:
フランス映画祭 
フランス映画祭2015試写〜映画『ヴィオレット』text藤野 みさき 

2015年7月19日日曜日

フランス映画祭2015〜映画『アクトレス〜女たちの舞台〜』text岡村 亜紀子

「青い小鳥よ いずこに」


 この文章を書いていたわたしの脳内に、アニメ『銀河鉄道999』の同名オープニング曲の歌詞がふと浮かんできた。

ひとは誰でも しあわせさがす
旅人のようなもの
希望の星に めぐりあうまで
歩きつづけるだろう *
 
 映画は国際的に活躍する実力派女優のマリア(ジュリエット・ビノシュ)が、魅力的な若い女性シグリッド役でかつて彼女をスターダムに押し上げた舞台、『マローヤの蛇』の作者である劇作家ヴィルヘルムの受賞式に出る為に、マネージャーであるヴァレンティーヌ(クリステン・スチュワート)と、列車でヨーロッパを移動している場面から始まる。

 クリステン・スチュワートが演じるヴァレンティーヌは、あまり化粧っ毛が無く飾らない雰囲気の女性で、タブレットを駆使しながら大女優であるマリアをサポートする姿は、大女優マリアと観客とをつなぐ架け橋のような身近な存在として映る。彼女とマリアとの間には、大女優とそのマネージャーという関係から想像する主従関係というより(チューリッヒで授賞式に出たマリアがヴァレンティーヌの計らいによって若手の演出家と会い『マローヤの蛇』の再演依頼のオファーを受けたりもしていて)まるでパートナーのような対等な関係が成立しているように見える。とは言え、ヴァレンティーヌはマリアに対して率直な意見やアドバイスを言いながらも、年齢の違いから起こる感覚の違いに苛立ち、こっそり舌打ちをしたり不満を呟いたりもしつつ、現代的なバランス感覚で、雇用主であるマリアに対処している。

 原題(『Sils Maria』)でもある地名シルス・マリアは、スイスのグラウビュンデン地方のユリア峠とマローヤ峠の間にある、湖に挟まれたシルスという村の一画である。バゼリアとマリアという2つの地区に分かれ、大きい湖、谷、山々が美しい風景からは、マイナスイオンが溢れて来そうである(芸術家たちがインスピレーションや安らぎを求めて訪れる地としても知られている)。マリアは授賞式の後、シルス・マリアにあるヴィルヘルムのコテージで、ヴァレンティーヌと2人で籠り、台詞の読み合わせを行ったり、ハイキングをしたりしながら役作りをする。そこには幻想的ムードを持つ美しい風景と共に、現実と切り離されたマリアの為の時間が映し出されている。

 この地でのマリアは大女優ではなく対ヴァレンティーヌとしての一個人としてあり、女優としての自分を持つひとりの女として、様々な人間的感情を覗かせる。マリアとヴァレンティーヌの別荘でのひととき、湖で水浴びをするなどの楽しい瞬間(シーン)の幕引き(カット変え)の性急さが何度か繰り返され、何か別の出来事が水面下で起こっているような不穏な感覚を覚える。台詞合わせを行う2人のやりとりでは、そのやりとりは台本の台詞なのか、それとも2人の現実での会話なのか、曖昧さを伴って緊張感が漂い、現実と物語の世界との境界線を曖昧にして行き、一体何を観ているのか、そんな問いがふと頭を過る。

 そして後に起こるある不思議な出来事をもって、この地でのヴァレンティーヌは、マリアの孤独が生み出した幻だったのでは無いかという考えが起こる。その現代性や積極性、リスクを恐れぬ若さや飾らない様子はマリアの中に知らないうちに芽生えた欲求で、マリアに対するヴァレンティーヌの抱く不満さえ、かつてマリアが感じ取っていた感情の合わせ鏡のようなものなのではないかと。ヴァレンティーヌに対して、マリアはあくまで悠然と構えている様に見えながら、彼女の意見を受け入れ、影響され、時に甘える。「あなたが必要なのよ」と。それはまるで、ビジネスの相手ではなく、母親が娘に対して接している様な姿にも映る。そしてそれは、なぜか少し寂しい。

 映画を通してずっとマリアが孤独に見えたのはなぜなのか。舞台稽古が始まり、マリアはかつて自分が演じたシグリッド役のジョアン(クロエ・グレース・モレッツ)に、ある場面の舞台の演出上の意図の理解を得ようと話しかける。マリアは再演にあたりシグリットに破滅させられる上司の中年女性ヘレナを演じており、舞台の筋書きと同じ様に、手のひらを返したジョアンに冷たくあしらわれてしまう。そこで思うのは、かつてのマリアはジョアンであったかもしれず、ジョアンはいつかマリアになるのもしれないという時間がもたらす人に起こっていく変化である。これまでの作品と同様にオリヴィエ・アサイヤス監督の映画の舞台はグローバルな幅を持っているが、さらに視線は人の内面である個人的な内面世界へと向けられている。今作では三人の女性を主軸に、画面には出てこない劇作家ヴィルヘルムの一生を垣間見せながら、人間の一生の内に積み重なって行く時間が描かれ、マリア(あるいはヴィオレンティーヌ)を通して、周囲との間に常に起こる自身の変容も描かれている。内面世界とその外側の間にあるものは、目に見えぬ境界であり大仰に言えばひとつの国境だ。今作はその境界内について描かれている、最小単位の世界の物語でもある。そこには誰にも個人的な歴史がある。誰も自分のものには出来ぬけれど、その誰かの幻の集合のようなものが陰の様に、人生の傍らには寄り添う。

 この映画にはメインキャスト3人の、キャスティングの妙がある。主演マリアの役柄は国際的に活躍するジュリエット・ビノシュ本人とおのずと重なる。ハリウッドの注目の若手女優ジョアンは、まるで設定を写したようなクロエ・グレース・モレッツが演じ、クロエのジョアンがパパラッチの標的になるシーンはリアルに感じられるが、実際にはクロエよりもヴァレンティーヌ演じるクリステン・スチュワートが共演者との恋愛によってパパラッチの標的になってきたイメージが強く、少し強引に言えばクロエは家族にサポートされて子役からキャリアをスタートしており、マリアとヴァレンティーヌの2人の関係性は、彼女と家族のそれと類似しているのではないだろうか。本編には直接関わりのない、演じた役柄と本人像が近いという背景の部分が、物語の中で覚えた感覚と同じ様に、映画と現実の世界とが入り交じった様な感覚を与え、映画の中に現実の彼女たちを思わずにはいられない。

 舞台は始まったら必ず幕が引かれるものだ。その道筋をマリアはどうやって歩いて行くだろうか。何層にも重なる登場人物たちのストーリーにその実際の背景が呼応して、幾度となく物語を反芻してしまう。

冒頭で引用した『銀河鉄道999』の歌詞は、こう結ばれている。

きっといつかは 君も出会うさ 青い小鳥に *

シルス・マリアにいた青い小鳥は、マリアの中にいるのかも知れない。




上映後にはオリヴィエ・アサイヤス監督のトークショーが行われた。

Q.「2010年に70年代のゲリラのテロリストを描いた『カルロス』、その後2012年に『五月の後』という五月革命の後の世代を描いた青春映画がありましたが、その後に女性映画を作るということになった考えといきさつを教えてください。」

A.「70年代を描くもの(『カルロス』、『五月の後』)で、その時代の人物について語りたい事を尽くしたため、新しいものを作りたいと思いました。ジュリエット・ビノシュとは以前から一緒に作りたいと話しており、2人の気持ちが一致して映画が出来ました。」

Q.「脚本は、ジュリエット・ビノシュと一緒に作り上げたのですか?」

A.「そうではありません。ある時ジュリエットから、“わたしたち2人の関係を表すような映画をつくってはどうか”という提案がありました。わたしたちは電話でのやり取りで映画についてのイメージを語り合い、彼女のこの作品についてのイメージを聞いて、わたしたちの人生にしみ込んだ時間、過ぎた長い時間、変わって行く時間について語る映画が撮れるのではと思いました。ジュリエットとは定期的に会って話していましたが、何がテーマの映画になるのか彼女は脚本が出来るまで知りませんでした。」

Q.「クリステン・スチュワートの起用過程を教えて下さい」

A.「彼女は『トワイライト』シリーズとメディアによって有名になったかも知れないが独特の存在感があると思っていました。『イントゥ・ザ・ワイルド』に5分程出演しているのを見て、忘れられない存在となりました。カメラ写りの良さが素晴らしい、アメリカ映画では希有な女優です。」

「今まで彼女にもたらされなかった事、自由を与え、自分自身を発見し理解する事を、高額な報酬も居心地の良さも無いインディペントな映画の現場において、自分が与える事が出来るのではないかと思ったし、現実にそうすることが出来たと思っています。」

「今回の映画によって彼女は新しい扉を開きました。彼女は彼女自身が想像しているよりも息の長い素晴らしい女優になると思います。」

クリステン・スチュワートは本作で米国人女優初のセザール賞助演女優賞を受賞しており、監督の言葉が現実になるであろうと感じられた。

また、ジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートの相性と、2人の関係が作品に与えた影響については、

「本当にこの2人が上手く行くかというのは、本質的な問題でした。2人の関係が上手く行かなかったら作品はダメになっていたでしょう。クリステンはジュリエットを、自由に強く女優を続けている先輩として、彼女にその姿勢を学びたいと思っていたようです。ジュリエットは、クリステンは若いけれど、映画に対する情熱の持ち方に感心していました。彼女たちは、お互いに刺激を与え合い、いい意味での競争心があるバランスが取れていた良い関係でした。」

と答えられていて、それほど2人の関係が今作で重要であったことを思わせられた。

『アクトレス〜女たちの舞台〜』という邦題やシャネルが特別協力したという華やかな衣装が話題を呼び、女性雑誌などで特集されそうな気配があり、女性からの関心が高まりそうだ。トークショー時には年配の方から若い方まで男性が熱心に監督に質問をしていた。是非、男性も多く劇場に足を運んでみてほしい。

映画祭の熱狂の中、日本で産声を上げたばかりの映画を観る喜びと、帰りしなに何度も観客席に向かってお礼をするアサイヤス監督の人柄に触れ、貴重な時間を持つことが出来た幸せに感謝を添えて。







*橋本 淳作詞『銀河鉄道999』より引用

(text:岡村 亜紀子)

関連レビュー:フランス映画祭2015〜映画『ティンブクトゥ』(仮題)text井河澤 智子





映画『アクトレス』

原題『Sils Maria』

作品解説
大女優として知られるマリアは、忠実なマネージャーのヴァレンティーヌとともに、二人三脚で日々の仕事に挑んでいた。そんな中、マリアは自身が世間に認められるきっかけとなった作品のリメイクをオファーされる。しかし、そのオファーは彼女が演じた若き美女の役柄ではなく、彼女に翻弄される中年上司の方。主人公役は、ハリウッドの大作映画で活躍する今をときめく若手女優だった…。


出演
ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ

スタッフ
監督:オリヴィエ・アサイヤス
脚本:オリヴィエ・アサイヤス
制作:シャルル・ジリベール

受賞歴
2015年セザール賞助演女優賞受賞

配給:トランスフォーマー

2015年秋、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー

ホームページ:http://unifrance.jp/festival/2015/films/film07

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「フランス映画祭2015」

【開催概要】
日程  : 6月26日(金)~29日(月)
会場  : 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長  : エマニュエル・ドゥヴォス(『ヴィオレット(原題)』主演女優)
公式URL: http://unifrance.jp/festival/2015/

主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京/全日本空輸株式会社
Supporting Radio : J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム

2015年7月12日日曜日

フランス映画祭2015〜合同取材〜ユニフランス代表 イザベル・ジョルダーノ氏 text藤野 みさき

『ユニフランス代表 イザベル・ジョルダーノ氏合同取材』text藤野 みさき


今年で23回目を迎えるフランス映画祭。本映画祭に伴い、2015年6月26日(金)、パレスホテル東京にて、ユニフランス代表であるイザベル・ジョルダーノ氏の合同取材が行われた。
 
代表に就任する前は、20年間に渡りジャーナリストとして活躍。幼い頃から映画が好きで、中学・高校時代は学校が終わると週に3回ほど映画館に足を運んでいたという、ジョルダーノ氏。ジャーナリストとして活動をしていた頃は、取材する立場だった彼女にとって、「私が現在のフランス映画界を代表する、オリヴィエ・アサイヤス監督や、女優のエマニュエル・ドゥヴォスさんと共に来日できるとは思ってもみませんでした。」と、今回の来日を感慨深く述べてくれた。



Q:私は昨年のフランス映画祭で上映された『スザンヌ』(*1)という映画を観て、とても感動しました。日本において本作は映画祭のみでの上映でしたが、日本ではまだ知られていない素晴らしい作品や監督も沢山いらっしゃるかと想像します。今後、ジョルダーノさんが日本において紹介したいと願う、作品、監督がいましたら、教えていただけないでしょうか?

A:『スザンヌ』は、私も好きな映画です。まず、この映画祭で他では観ることの難しい作品を観ていただけたことを、とても嬉しく思います。映画祭のラインナップのバランスを考えるとき、まだ配給の決まっていない作品を、2つは入れるように心掛けているのです。今年は『ヴェルヌイユ家の結婚協奏曲』と『夜、アルベルティーヌ』ですね。フランスにも才能に溢れる若手監督は多いのですが、強いて一人挙げるのでしたら、私はエマニュエル・ベルコを推したいと思います。彼女は非常に才能豊かな女性監督であり、最新作である『La Tete Haute』(*2)は今年のカンヌ映画祭のオープニングを飾りました。日本には河瀬直美監督がいらっしゃいますが、私は若手の女性監督の描く鋭い視点や世界感に惹かれます。フランスでは、現在女性監督の割合が25%をしめており、この数字は世界で最も高い水準を誇っているのではないかと思います。

また、2015年のフランス映画祭の団長を務めるエマニュエル・ドゥヴォスについても、

「彼女はフランスではとても愛されている女優です。彼女が歩いていると、道行く人が彼女を呼び止め、『ありがとう。』と伝えるのです。『あなたが出演しているおかげで、私はこの映画に出逢うことが出来た。』と。エマニュエルは、映画を、役柄を選ぶことが、非常に上手な女優ですね。」

と、こころ温まるエピソードも語ってくれた。

大きな瞳に、優しいまなざし。質疑応答中はもちろん、瞳が合うといつも優しく微笑んでくれたことが本当に嬉しく印象的だった。私が質問の中で挙げた『スザンヌ』のカテル・キレヴェレ監督も女性であることから、今回の取材を通じて、現在のフランス映画界において女性監督が担うことの頼もしさをも感じることができた。『私たちの宣戦布告』(*3)で知られる、ヴァレリー・ドンゼッリ、本映画祭で上映される『夜、アルベルティーヌ』のブリジット・シィや、『EDEN/エデン』の監督である、ミア・ハンセン=ラヴ。実際今年のラインナップでは上映される12本中の3本が女性監督の作品であり、今後とも彼女たちの活躍から目が離せない。

現在日本では年間約40本のフランス映画が配給されている。その本数に対して、「もっと増やせると思います。」と、ジョルダーノ氏はつよく頷く。これからも日本にフランス映画を届け続けたい。という、彼女の願い。その想いは、彼女の物腰の柔らかい姿勢や、一呼吸置いた言葉の紡ぎ方、そして時に微笑みながら私達の質問に答えている様子から、とてもよく伝わってきた。
 
映画祭開催前の、小雨模様の昼下がり。大都会のオフィス街から離れた、閑静なホテルの一角にて、落ち着いた時を過ごすことができた。

1. 『スザンヌ』
監督:カテル・キレヴェレ
出演:サラ・フォレスティエ、フランソワ・ダミアン、アデル・エネル
2013年|フランス映画祭2014年にて上映

2. 『La Tête Haute/ラ・テートゥ・ウート(原題)』
監督:エマニュエル・ベルコ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ブノワ・マジメル他
2015年|2015年カンヌ映画祭オープニング作品

3. 『私たちの宣戦布告』
監督:ヴァレリー・ドンゼッリ
出演:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム
2011年|2012年日本公開

PROFILE:
イザベル・ジョルダーノ Isabelle Giordano
ユニフランス・フィルムズ代表
1963年パリ生まれ。パリ政治学院を卒業後、ジャーナリストとして活躍。10年にわたってテレビ局で映画情報番組の製作とプレゼンターをつとめる。2009年、フランス芸術文化勲章オフィシエ受勲。2013年にレジオンドヌール勲章シュヴァリエ受勲。2013年9月よりユニフランス・フィルムズ代表に就任。フランス文化の海外での普及復興に力を注いでいる。

「フランス映画祭2015」

【開催概要】
日程  : 6月26日(金)~29日(月)
会場  : 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長  : エマニュエル・ドゥヴォス(『ヴィオレット(原題)』主演女優)
公式URL: http://unifrance.jp/festival/2015/

主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京/全日本空輸株式会社
Supporting Radio : J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム


2015年7月11日土曜日

フランス映画祭2015〜映画『ティンブクトゥ』(仮題)text井河澤 智子

「トークショーゲスト:アブデラマン・シサコ監督」


広大な砂漠に、伝統的な人形が並べられている。次々に撃ち抜かれ破壊される人形。
このシーンで、その後の物語は語られたようなものである。

マリ北部の村にイスラム過激派組織がやってくる。住民と同じイスラム教徒ではあるが、彼らは彼らによる解釈に基づく教えを正義であると信じ、市民に強いる。音楽を楽しむこと、サッカーをすること、煙草を吸うことは禁止。女性はチャドルで体を覆い、素手素足を曝すことも禁止される。武器を持ち足音高くその地のモスクに踏み込む過激派に、その地域の宗教指導者はこう諭す。「私たちは私たちのやり方で神に祈る」、と。

牛飼いは音楽家でもあり、ティンブクトゥ近郊の砂漠に居を構えている。妻と娘と少年と、静かに暮らしている。
住居のそばには河が流れ、対岸には漁師が住んでいる。

この映画は「様々な対立」の構造を内包している。同じ宗教を信じながら、相容れない考えを持った集団。牛飼いと漁師の間の緊張関係。それぞれの正義がある。穏やかに諭す現地の宗教指導者に対しても、過激派は淡々と、神の教えを解釈するのは我々であり、守らない者は鞭打ち、石打ちの刑を科す、と述べる。神の教えは彼らにとって人命に先立つものであった。市民たちは理不尽な刑を受けながらも誇り高く抵抗を示す。
しかし、過激派の教えは、当の過激派に属する兵士にも守りきることはできないほど厳格なものであった。象徴的な一本の煙草。

さて、街外れに住んでいた牛飼いはどうなったか。
彼もまた、過激派の力から逃れることはできなかった。

セザール賞を7部門受賞したこの映画は、2012年、監督が新聞で読んだ、石打で処刑されたマリのカップルについての記事に基づき、製作されたという。もともとマリには死刑制度はないが、この時期マリ北部を占拠していた過激派により、この事件は起きた。いくつかの死刑がこの物語にも現れるが、実はこれらは「法に基づく刑」というより「私刑」に近いものだったのではないだろうか。


アブデラマン・シサコ監督はこの映画についてこう語った。

「この映画は野蛮な行為に抵抗する映画です。イスラム教は野蛮な宗教ではありません。一部の人々が野蛮な行為をするのです。」

「暴力のシーンを見世物のように描くのは避けたかった。人の死を描くの血を見せる必要はありません。
重要なのは、"野蛮な行為をするのは、人間である、だから恐ろしい"ということです。」 

「シナリオはマリ北部が占拠されていた時に書きましたが、解放後色々な人から話を聞きました。
住民たちは"平和な抵抗"を行っていました。ボールなしでのサッカーのシーンや鞭打たれながら歌う女性の場面にそれを描きました。また、"平和な抵抗"は主に女性たち、強い女性たちによって行われていました」

監督が語るように、この映画は「女性の強さ」も非常に印象に残る。市民のしなやかな抵抗、女性たちの肝の据わった美しさにも、ぜひ注目してご覧頂きたい。


(text:井河澤 智子)


映画『ティンブクトゥ』(仮題)
原題:Timbuktu
2014/フランス・モーリアニア/97分

作品解説
2015年のセザール賞の7部門受賞、同年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。世界遺産登録のマリ共和国の古都を背景に、音楽を愛する父と娘がイスラム過激派の弾圧に苦しみ、闘う姿を描いた感動作。
ティンブクトゥからそう遠くない街で、 家族と共に音楽に溢れる幸せな生活を送っていたギターンだが、過激派が街を占拠してからは彼らの法によって支配され、歌、笑い声、たばこ、そしてサッカーでさえも禁止され、毎日の様に悲劇と不条理な懲罰が待っていた。一家はティンブクトゥに避難するのだが、ある出来事によって彼らの運命は大きく変わってしまう。

出演
イブラヒム・アメド・アカ・ピノ
トゥルゥ・キキ
アベル・ジャフリ

監督:アブデラマン・シサコ

受賞歴
2015年 セザール賞 最優秀作品賞・監督賞・脚本賞・音楽賞・撮影賞・編集賞・音楽賞受賞
2015年 アカデミー賞®外国語映画賞ノミネート

作品情報(フランス映画祭2015の作品ページより)
http://unifrance.jp/festival/2015/films/film09

劇場情報:2015年公開予定

フランス映画祭2015 
6月26日(金)~29日(月) 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)にて開催! 公式サイト : http://unifrance.jp./festival/2015/


2015年6月27日土曜日

フランス映画祭2015〜オープニングセレモニー取材text大久保 渉

「フランス映画祭2015 オープニングセレモニー/ユニフランス代表イザベル・ジョルダーノ合同取材」


紺色のタイトなストライプスーツ。後ろで一つにたばねた髪。颯爽としたいでたちでありながら、その笑顔は柔和で、口にする言葉の一つひとつが優しく、温かみに溢れている。ユニフランス・フィルムズ代表 イザベル・ジョルダーノ氏。彼女を囲んだ合同取材が、2015年6月26日(金)パレスホテル東京にて行われた。

「母親がわが子を愛するのと同じように、出品作品のすべてを愛している」

取材中、フランス映画祭2015のラインナップにむけた想いをそう語ってくれたジョルダーノ氏。ずばり、全作品がお勧めとのこと。

ジュリエット・ビノシュ×クリステン・スチュワート、仏米豪華キャスト競演による、中年女性の葛藤と孤独を描いた『アクトレス ~女たちの舞台~』。美しい映像と共に、稀代の写真家の足跡を追った『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』。独自の視点や、アーティストであることを貫き通した、フランソワ・オゾン監督の傑作『彼は秘密の女ともだち』。他にも、ドラマ、コメディ、ラブロマンスと、様々なジャンルがにぎわうラインナップ。

こちらをまっすぐに見据えて、今映画祭の魅力を情熱的に語る彼女のすがたを見ては、全作品に対する期待がますます高まってきてしまう、そんな活気に満ちた合同取材であった。

その後、すぐさま有楽町朝日ホールへと移動。フランス映画祭2015 オープニングセレモニーに参加。応援団長として来日したエマニュエル・ドゥヴォスが壇上に上がった際には、ほぼ満席となった会場から割れんばかりの拍手が沸き起こる、なんとも盛大なオープニングセレモニーであった。

そして、オープニング作品『エール!』もまた大喝采のうちに終了。個人的には、上映後のティーチインイベントで登壇したルアンヌ・エメラ(主人公:ポーラ役)の天真爛漫さがとても可愛らしくて、まさに彼女が演じた役そのままだ、と激しく感動してしまったのである。

上映中のスクリーンから伝わってきた朗らかさが、彼女のもって生まれた明るさであることになんだかとても嬉しくなってしまい、10月の『エール!』公開時には必ず劇場で再見しよう、と強く思ったのである。
(text:大久保 渉)


「フランス映画祭2015 オープニングセレモニー」

日程: 6月26日(金)17:20~18:00
場所:有楽町朝日ホール        
登壇:エマニュエル・ドゥヴォス(フランス映画祭2015団長『ヴィオレット(原題)』出演女優)/アンヌ・フォンテーヌ(『ボヴァリー夫人とパン屋』監督)/アナイス・ドゥムースティエ(『彼は秘密の女ともだち』出演女優)/フェリックス・ド・ジヴリ(『EDEN エデン』出演男優)/スヴェン・ハンセン=ラヴ(『EDEN エデン』共同脚本)/オリヴィエ・アサイヤス(『アクトレス~女たちの舞台~(原題 シルス・マリア)』監督)/マルタン・プロヴォスト(『ヴィオレット(原題)』監督)/アブデラマン・シサコ(『ティンブクトゥ(仮題)』監督)/ジュリアーノ・リベイロ・サルガド(『セバスチャン・サルガド』共同監督)/グザヴィエ・ボーヴォワ(『チャップリンからの贈りもの』監督)/ルアンヌ・エメラ(『エール!』出演女優)/エリック・ラルティゴ(『エール!』監督) 全12名



「フランス映画祭2015」

【開催概要】
日程  : 6月26日(金)~29日(月)
会場  : 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)
団長  : エマニュエル・ドゥヴォス(『ヴィオレット(原題)』主演女優)
前売券 : 5月23日(土)AM10:00~6月24日(水) チケットぴあ にて発売
公式URL: http://unifrance.jp/festival/2015/

主催:ユニフランス・フィルムズ
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京/全日本空輸株式会社
Supporting Radio : J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス・フィルムズ/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム



映画『エール!』2015年10月31日(土)から新宿バルト9ほか全国公開