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2016年12月14日水曜日

アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016 アンコール!



<2016アピチャッポン・イヤー>を締めくくる、アピチャッポン・ウィーラセタクンの特集上映がアンコール開催!

その名も「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016 アンコール!」

(2016年12月17日よりシアター・イメージフォーラムにて開催されます)

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<2016アピチャッポン・イヤー>のラストを飾る特集上映。

『ブンミおじさんの森』(2010)で2010年カンヌ国際映画祭・パルムドール(最高賞)に輝いたタイの天才監督にして美術作家でもあるアピチャッポン・ウィーラセタクン。今年は1月に幻の傑作『世紀の光』(2006)初公開と特集上映<アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016>が開催され、3月には最新作『光りの墓』(2015)の公開、また、各地での展覧会やワークショップや「さいたまトリエンナーレ2016」への参加、きたる12月13日からは東京都写真美術館での個展スタートと、映画に美術にまさに<アピチャッポン・イヤー>。そしてそのラストを飾るのが本特集上映<アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016アンコール!>です。


全長編作と貴重な共同監督作や関連作も上映し、さらに多面的に。

今回は、これまでの全劇場長編作とともに、単独監督作とはまったく違う異色の共同監督作であるモンド西部劇ミュージカルコメディ『アイアン・プッシーの大冒険』(2003)を上映。さらに関連作として、アピチャッポンの故郷でありその映画の主な舞台であるタイ東北部イサーン地方を描いたタイ映画史に輝く名作『トーンパーン』(1976)、『東北タイの子』(1982)も上映。全9作を上映し、より多面的により深く、アピチャッポンの映画世界に触れることができます。



アピチャッポン監督も来場。何回見ても発見がある作品群をぜひスクリーンで。

また、開催期間中には監督本人が来場し、舞台挨拶やQ&Aも予定。上映作品を網羅したパンフレットも販売される。映画館の闇は、アピチャッポンが繰り返し描くタイ東北部イサーン地方の森へとつながるタイムマシーン。闇の中に身を沈め、ふと目を覚ませばアピチャッポンと森を彷徨っている、そんなスリリングな体験を映画館でぜひ!

12/13からは東京都写真美術館の個展。12/17からは本特集上映。美術を見てから映画を見るか、映画を見てから美術を見るか。<2016年アピチャッポン・イヤー>のラストにふさわしくたっぷりとお楽しみください。

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上映作品解説


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①『真昼の不思議な物体』 

原題:Mysterious Object at Noon

2000年|タイ|83分|モノクロ|35mm

山形国際ドキュメンタリー映画祭インターナショナル・コンペティション 最優秀&NETPAC特別賞受賞/全州国際映画祭グランプリ受賞


©Kick the Machine Films  提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭


タイ東北部の村で行商人の女性が、撮影クルーに促され、一つの架空の物語を語り始める。その続きを象使いの少年たち、伝統演劇の劇団員たちなど、様々な人々がリレー形式で即興的に語り継ぎ、物語は二転、三転しながら思わぬ方向に進んでいく。驚くほどの自由なイマジネーションと同時に緻密に考えられた構成で、世界を仰天させた記念すべき長編初監督作品。

提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭 
協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター


奥平 詩野
映画『真昼の不思議な物体』評 

今泉 健
映画『真昼の不思議な物体』評 

井河澤 智子
映画『真昼の不思議な物体』評

長谷部 友子
映画『真昼の不思議な物体』評 

髙橋 雄太
映画『真昼の不思議な物体』評


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②『ブリスフリー・ユアーズ』 

原題:Blissfully Yours

2002年|タイ|125分|カラー|35mm

カンヌ国際映画祭ある視点賞/東京フィルメックス映画祭最優秀作品賞/テサロニキ映画祭グランプリ/ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭監督賞&国際批評家連盟賞ほか

©Kick the Machine Films  提供:Kick the Machine Films

ミャンマーからやって来た不法労働者のミン、そのガールフレンドの若い女性ルン、ミンを何かと気づかう中年女性オーン。ミンとルンとは森の中をさまよいながらひと時を一緒に過ごす、偶然同じ時に不倫相手と森に入ったオーンは姿を消した相手の男を探すうちにミンとルンと遭遇する。ジャン・ルノワール監督の不朽の名作『ピクニック』にもたとえられた至福の映画。

提供:Kick the Machine Films 
協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター


高橋 秀弘
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

井河澤 智子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

大久保 渉
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

岡村 亜紀子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 


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③ 『アイアン・プッシーの大冒険』

原題:The Adventure of Iron Pussy

2003年|タイ|90分|カラー|デジタル

監督:マイケル・シャオワナーサイ、アピチャッポン・ウィーラセタクン


©Kick the Machine Films  提供:GMM GRAMMY Public Company Limited

フィラデルフィア生まれのタイ人現代美術アーティスト、マイケル・シャオワナーサイとの共同監督作。シャオワナーサイ扮する女装のスパイ“アイアン・プッシー”は、怪しい富豪の屋敷にメイドとして潜入。大騒動をまきおこす。他のアピチャッポン作とは全く違う、ツッコミどころ満載の“モンド西部劇ミュージカルコメディ”。自身は、ビデオアート・プロジェクトの一つと位置づけ、要所要所のショットにアピチャッポンらしさを発見するのも楽しい。

提供:GMM GRAMMY Public Company Limited
協力:boid

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④『トロピカル・マラディ』 

原題:Tropical Malady

2004年|タイ、フランス、イタリア、ドイツ|118分|カラー|35mm

カンヌ国際映画祭審査員賞/東京フィルメックス映画祭最優秀作品賞/サンパウロ国際映画祭批評家賞/カイエ・デュ・シネマ2004年ベスト1ほか


©Kick the Machine Films  提供:Tamasa Distribution

愛し合う二人の青年の日常がみずみずしく描かれる前半から、一転、不穏な空気に包まれる後半。冒頭には日本の作家、中島敦の「山月記」の一節が引用され、アピチャッポン作品を貫く重要な要素の一つである“変容”が最も顕著に表現されている。観客に森の中に迷い込んだかのような感覚を与える撮影と音響は圧巻。カイエ誌ベスト1にも輝いた傑作。

提供:Tamasa Distribution 
協力:一般社団法人コミュニティシネマセンター

長谷部 友子
映画『トロピカル・マラディ』評

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⑤『世紀の光』 

原題:Syndromes and a Century

2006年|タイ、フランス、オーストリア|105分|カラー|DCP

ヴェネチア国際映画祭公式出品/ドーヴィル・アジア映画祭グランプリ/フリブール国際映画祭スペシャル・メンションほか


©Kick the Machine Films  提供・配給:ムヴィオラ

今年日本で初公開された、ファンの間で特に人気が高い作品。映画は2つのパートに分かれ、前半は地方の緑豊かな病院、後半は近代的な白い病院が舞台となる。登場人物の多くも重なり、医師の恋の芽生えなどのエピソードは2つのパートで反復され、夢見ているような奇妙な感覚に誘われる。撮影中に多くのスタッフが恋に落ちたというエピソードを持つ、“微笑み”と“驚き”の傑作。

提供・配給:ムヴィオラ


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⑥『ブンミおじさんの森』 

原題:Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives

2010年|イギリス、タイ、ドイツ、フランス、スペイン|114分|カラー|35mm

カンヌ国際映画祭パルムドール/アジア・フィルム・アワード最優秀作品賞/カイエ・デュ・シネマ2010年ベスト1ほか

©Kick the Machine Films  提供:シネマライズ 配給:ムヴィオラ

腎臓の病に冒され、死を間近にしたブンミは、妻の妹ジェンをタイ東北部の自分の農園に呼び寄せる。そこに19年前に亡くなった妻が現れ、数年前に行方不明になった息子も姿を変えて現れる。やがて、ブンミは愛するものたちとともに森に入っていく。美しく斬新なイマジネーションで世界に驚きを与えた、カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞作。

提供:シネマライズ 配給:ムヴィオラ



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⑦『光りの墓』 

原題:Cemetery of Splendour

2015年|タイ、イギリス、フランス、ドイツ、マレーシア|122分|カラー|DCP

カンヌ国際映画祭<ある視点>部門出品/アジア太平洋映画賞最優秀作品賞/国際シネフィル協会賞最優秀未公開映画賞ほか


© Kick The Machine Films / Illuminations Films (Past Lives) / 
Anna Sanders Films / Geißendörfer Film-und Fernsehproduktion /
Match Factory Productions / Astro Shaw (2015) 

提供・配給:ムヴィオラ


タイ東北部。かつて学校だった仮設病院。原因不明の“眠り病”にかかった兵士たち。ある日、病院を訪れたジェンは、前世や過去の記憶を見る力を持った若い女性と知り合い、その病院の場所が、はるか昔に王の墓であったと知り、兵士たちの眠り病に関係があると気づく。映画作家としてのさらなる進化を感じさせ、またタイの政治状況に対する想いも込められた傑作。

提供・配給:ムヴィオラ


長谷部 友子(寄稿・neoneoWEB)
映画『光りの墓』評

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関連上映作品


アピチャッポン映画にとって、その故郷タイ東北部イサーン地方は特権的な場所。かつてカンボジアとラオスという異なる帝国から成り立ち、バンコクとは全く違う文化を持っていたイサーン。貧しい地域であり、60〜70年代にはその森に共産主義が逃げ込み、共産主義者狩りの舞台ともなった場所。
アピチャッポンの土地の記憶を掘り下げる為に、ぜひとも見ておきたいタイ映画史の名作2本が上映されます。


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⑧『トーンパーン』

原題:Tongpan

1976年|タイ|63分|モノクロ|デジタル

監督:スラチャイ・ジャンティマートン、パイジョン・ライサグン、ユッタナー・ムクダーサニット


© The Isan Film Group  提供:Multimedia Thailand


75年に実際にあったダム建設問題をドラマ化したドキュ・ドラマ的な白黒16mm作品。ダム建設で土地を失った農夫のトーンパーンは妻と2人の息子を抱え、ムエタイの試合に出たり、サムロー(人力三輪車)の運転手をして何とか暮らしていたが……。民主化運動が高まった当時、共産主義者が逃げ込んだイサーンが舞台なので、政府により上映が禁止になったという問題作だが、イサーン農民の貧しさ、町の風俗などのリアルで詩情ある描写は必見。後年、『メナムの残照』などを残した巨匠ユッタナー・ムクダーサニットの貴重な初期作でもある。

提供:Multimedia Thailand 
協力:boid

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⑨『東北タイの子』

原題:A Son of the Northeast

1982年|タイ|130分|デジタル

監督:ウィチット・クナーウット 原作:カムプーン・ブンタウィー


© Five Star Production Co., Ltd.  提供:Five Star Production

東北タイに生まれ、行商人、日雇い労働、刑務所の獄吏など様々な職を経て作家となり、晩年は国民的作家となったカムプーン・ブンタウィーの同名小説の映画化。当時タイで大ヒットし、映画賞も独占した。干上がった地で貧しく暮らすイサーン農民が、遠く離れた川まで魚を獲りに牛車のキャラバンで旅に出る姿を描く。見所は何と言ってもイサーンの知られざる生活風景、日本の伝承話にも通じる大らかな性の描写も素晴らしい。83年にマニラ映画祭で審査員だった大島渚が絶賛したのも納得の傑作。

提供:Five Star Production 
協力:boid

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アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016アンコール!

開催日程
2016年12月17日(土)~1月13日(金)<4週間>

会場
シアター・イメージフォーラム 
(東京都渋谷区渋谷2-10-2)

上映作品
『真昼の不思議な物体』『ブリスフリー・ユアーズ』『アイアン・プッシーの大冒険』
『トロピカル・マラディ』『世紀の光』『ブンミおじさんの森』『光りの墓』(以上アピチャッポン監督作)

関連上映
『トーンパーン』(ユッタナー・ムクダーサニットほか監督)、『東北タイの子』(ウィチット・クナーウット監督)

公式ホームページ
http://www.moviola.jp/api2016/woods2/index.html

監督トークイベント
12月19日(月)15:30の回『光りの墓』上映後&18:30の回『世紀の光』上映前
*トークの日時はやむを得ぬ事情により変更となる場合があります。

配給
ムヴィオラ:http://www.moviola.jp

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【ことばの映画館の批評家による<アピチャッポン監督作品>映画評一覧】


井河澤 智子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 
映画『真昼の不思議な物体』評 

今泉 健
映画『真昼の不思議な物体』評 

大久保 渉
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

岡村 亜紀子
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 

奥平 詩野
映画『真昼の不思議な物体』評 

佐藤 奈緒子
映画『世紀の光』評 
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

高橋 秀弘
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

高橋 雄太
映画『世紀の光』評 
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評 
映画『ブンミおじさんの森』評
映画 アートプログラム<中・短編集>評
映画『真昼の不思議な物体』評

長谷部 友子
映画『トロピカル・マラディ』評
アートプログラム『国歌』評 
映画『真昼の不思議な物体』評 
映画『世紀の光』評 
映画『ブンミおじさんの森』評
映画『ブリスフリー・ユアーズ』評

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【寄稿・ドキュメンタリーマガジンneoneo・ウェブサイト「neoneo web」】

長谷部 友子
「あなたに起きていてほしい」-アピチャッポン・ウィーラセタクン監督『光りの墓』

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2015年9月7日月曜日

映画『チャルラータ』試写text佐藤 奈緒子

※文章の一部で結末に触れている箇所があります。

「美しい刺繍のような映画」


サタジット・レイ監督作は『大地のうた』(1955年)しか観たことがなかった。本作も『ダージリン急行』(2007年)の特典映像でウェス・アンダーソン監督が「大好きな『チャルラータ』(1964年)の音楽をふんだんに使用した」と語っていたことで、題名だけが頭に残っていたぐらいだ。なので始まってすぐに聞こえてきた音楽に郷愁が押し寄せてきたのも無理はないだろう。しかしそれはオリジナルよりも先にオマージュと出会ってしまった逆回転の懐かしさだけではなく、50年前に作られた美しい旋律から、“失われた時代”、“二度と取り戻せない時間”を感じ取って胸が締めつけられたからのような気もする。

冒頭、白いハンカチの隅に丹念にイニシャルを刺繍していく手元から物語は始まる。若く美しい妻チャルラータ(マドビ・ムカージー)が夫ブパチ(ショイレン・ムカージー)のために針仕事をするこの長いワンショットで既に、この夫婦関係の一端が窺い知れる。19世紀後半のカルカッタ、夫は新聞社の社長兼編集長、インドの独立を夢見て奔走する忙しい日々だ。一方、子供もおらず家事労働も使用人任せにできるチャルラータは、刺繍や読書で時間を埋める寂しい毎日を送っていた。そんな折、夫の従弟アマル(ショウミットロ・チャタージ)が休暇で訪ねてくる。年の離れた夫と違い、同年代で同じく文学を愛する彼にチャルラータは徐々に惹かれていく。次第にアマルも彼女の思いを感じ取るが、チャルラータの兄が新聞社の金を持ち逃げしたことで、二人の淡い恋は唐突に終わりを迎える……。

チャルラータは有閑マダムだ。贅沢な家で退屈しながら、物売りの声が聞こえると広い屋敷の中の窓から窓へ移動してオペラグラスで外の通りをのぞく。その寂しくも可憐な姿は、劇中何度も登場する“カゴの鳥”そのもの。彼女が思いをよせるアマルは、詩や文学を愛し、歌ったり踊ったり、とにかく周りを明るくする魅力的な若者だ。嵐と共に登場し嵐と共に退場する、まさに“嵐を呼ぶ男”と言える。舞台は女性が芸術的才能を発揮することも自由に恋愛することもままならなかったイギリス統治下のインド。ここで描かれるチャルラータの悲哀は、世界中のあらゆる地域、あらゆる時代で起こった無数の女性の悲しみにも通じる。しかし彼女はただ淡い恋心に翻弄される女性ではなく、文学の才能と激しい情熱を秘めていた。アマルの文章が雑誌に掲載されたのを知ると、負けじと格上の雑誌に投稿して掲載を勝ち取ったりする。この時のチャルラータの黒く大きな瞳には以前にはなかった、燃えるような闘志がみなぎっている。いつしか彼女は、小さなカゴには収まりきらない、強い意志と自我を持つ大人の女性に成長していたのだ。

貧農の少年を描いた『大地のうた』の民話のようなイメージで見始めたせいだろうか。可愛らしいメロドラマである本作に、初めは少し戸惑った。しかもカメラワークがなんだか楽しい。たとえばチャルラータがアマルの言動にハッとする瞬間に多用されるズーム。それはまるで少女漫画の「ドキン!」という擬態語だ。庭のブランコでチャルラータが歌う美しい場面でも、ブランコに固定されたカメラがめまぐるしく動く木々を、視界に入っては消えるアマルの寝顔を、まるで揺れに揺れる乙女心そのままに映し出す。みずみずしい彼女の感性が画面からこぼれ落ちるかのようだ。

ラストシーンは特に印象深い。チャルラータの思いを知ってしまった夫が失意の中、帰宅する。戸口で待つ妻は彼を招き入れ、見つめ合う二人が手を取り合うかに見えたその瞬間、突然画面が静止するのだ。チャルラータ、夫、そして廊下の奥にいる使用人の老人、それぞれのアップのあと、三人のショットでこの映画は終わる。老人の持つランプの光が今後の二人の明るい未来を暗示しているのだろうか。しかし、二度と動くことのない静止した画面からは“二度と取り戻せない時間”を感じずにはいられない。それはレイ監督が手がけた美しい旋律がもたらす郷愁にも通じる。どんな道をたどるにせよ、この夫婦が元の二人に戻ることは決してない。さらに言うと、唐突な使用人の登場は私に別の印象を残した。裕福に暮らす主人公たちは恵まれた階級であり、彼らのすぐそばには意見を言うことも持つことも許されない階級の人々がいる。突如広げられた視野によって、この夫婦の危機もまた上流階級というカゴの中の出来事でしかないように思われてくる。後世の観客である自分が感じることが監督の意図どおりとは限らない。実はまったく意味などないのかもしれない。それでも、この謎めいたラストはあらゆる解釈を可能にし、観る者の心を惹きつけてやまない。

顔の識別に苦戦度:★★★★☆



『チャルラータ』

1964年/インド/119分/B&W/ベンガル語/DCPリマスター
★ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞(1965年)

ストーリー

1880年、インド・カルカッタ。若く美しい妻チャルラータは、新聞社の代表兼社長であるブパチを夫にもち、何ひとつ不自由ない生活を送っていた。しかし、夫は年中多忙で、ほとんど妻とともに過ごそうとしない。そんな中、大学の休暇で夫の従弟であるアマルが訪ねて来る。快活な性格で、詩吟を楽しみ、文学に詳しいアマルの出現は、次第にチャルラータの退屈な日常を彩っていく…。 

出演

マドビ・ムカージー、ショウミットロ・チャタージ、ほか

スタッフ

原題:CHARULATA
原作:ラビンドラナート・タゴール
監督・脚色・音楽:サタジット・レイ
撮影:シュブラト・ミットロ
美術:ボンシ・チャンドログプタ
出演:マドビ・ムカージー、ショウミットロ・チャタージほか
配給:ノーム、サンリス
配給協力・宣伝:プレイタイム


公式ホームページ:http://www.season-ray.com/

劇場情報:9月12日よりシアター・イメージフォーラム、ほか全国順次公開

2015年7月22日水曜日

フランス映画祭2015 映画『ヴィオレット』(原題) text佐藤 奈緒子

「トークショーゲスト: 監督マルタン・プロヴォ/女優エマニュエル・ドゥヴォス」


本作はフランスに実在した女性作家ヴィオレット・ルデュックの半生を描いた伝記映画である。ヴィオレット(エマニュエル・ドゥヴォス)は両親に愛されずに育った孤独を抱える女性。だが彼女には小説を書く才能があった。第二次大戦中は闇市で生計を立てながら地道に文章を書き溜め、いつしかボーヴォワール(サンドリーヌ・キベルラン)に認められるようになる。文壇は彼女をすぐには受け入れなかったが、誰かに認められたい、愛されたいと願うヴィオレットはもがき苦しみ、自身の恋愛を赤裸々に描いた小説を発表することでようやく世間に認められていくのだが……


女性が自立することの難しかった20世紀半ば、父親に認知されず母親の愛に飢え、夫にも恵まれないヴィオレットは自立を強いられる。その過酷な環境や葛藤は結果として彼女の才能を育んだ。敷かれたレールのない人生が彼女をつまらない常識から解放し、愛への渇望が奔放な恋愛体験へと結びつけた。思想もビジョンもない彼女が結果的にフェミニズムの礎となったボーヴォワールにたどり着く奇跡的な巡り合わせは、ヴィオレット自身が切り開いた道でもある。その生き様はしかし、一言で言って痛い。自分を受け入れることのない男や女に期待して纏わりついて追いすがる、 結果自分を傷つける行動にばかり走るヴィオレットは、さながら自傷癖のある女。しかし彼女のなりふり構わぬ愛への渇望を痛々しく感じるのは、自分の中の小さなヴィオレットが同じ痛みを感じるからかもしれない。


マルタン・プロヴォ監督は映画『セラフィーヌの庭』に続き、再び、ひたむきで清らかな魂によって徐々に才能を認められていく女性アーティストを描いた。上映後に催されたトークショーで、監督がボーヴォワールをヴィオレットの「父親代わり」と評したのは興味深い。庇護者となる男性がいないヴィオレットの生き方がボーヴォワールを引きつけ、彼女の思想にも少なからぬ影響を与えたとも考えられる。ヴィオレット役にエマニュエル・ドゥヴォスを選んだことについて監督は「最初から彼女しかいないと思っていました。最初に、顔を醜くしてもいいかと聞いたら、女優にとってはプレゼントのようなものだと答えてくれました」と言っている。
確かに本作のエマニュエルは美しくない。もともと一度見たら忘れられない印象を残す彼女だが、どこをどうメイクしたのか、本作では顔にコンプレックスを持つヴィオレットに説得力を与えている。そのギャップもあってか、同じくトークショーに登壇した今年のフランス映画祭の団長であるエマニュエルの美しさには驚いた。作中のヴィオレットとはまったく異なる優雅で気品ある姿はまさにフランスの大女優の名にふさわしい。
彼女は演じた役について「男でも女でも絵画でも文学でも、アートで苦悩を乗り越える姿が素晴らしいと思います」と語った。

監督と女優が口を揃えて言っていたのは、現在では忘れ去られてしまったヴィオレット・ルデュックという作家の文章が非常に美しいということ。もし日本語訳で体験できるならぜひ一読してみたい。

痛さに共感度:★★★☆☆
(text佐藤 奈緒子)



『ヴィオレット(原題)』
原題:VIOLETTE 
フランス映画|2013年|仏語|カラー|1:1.85|5.1ch|139分|DCP
日本語字幕:松岡葉子

作品解説
『セラフィーヌの庭』でセザール賞最優秀作品賞に輝いたマルタン・プロヴォ監督が、“ボーヴォワールの女友達”と呼ばれた実在の女性作家、ヴィオレット・ルデュックの半生を描く。私生児として生まれたヴィオレットは作家モーリスと出会い、やがて小説を書き始める。ボーヴォワールを訪ね才能を見いだされるが、ヴィオレットの小説は大きなスキャンダルになりパリ文学界に大きな衝撃を与える。当時の社会に受け入れられず、愛を求める純粋さゆえに傷ついた彼女は……。生涯にわたり続いたボーヴォワールとの関係を中心に描かれ、背景となる40〜60年代の文学界の様子や、戦後パリの新しい文化の胎動も見所の一つとなっている。

出演
エマニュエル・ドゥヴォス
サンドリーヌ・キベルラン
オリヴィエ・グルメ
ジャック・ボナフェ
オリヴィエ・ピィ

監督:マルタン・プロヴォ

作品情報(フランス映画祭2015の作品ページより)
http://unifrance.jp/festival/2015/films/film08

劇場情報:12月岩波ホールほか全国順次公開
配給:ムヴィオラ
© TS PRODUCTIONS - 2013

フランス映画祭2015
6月26日(金)~29日(月) 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇(東京会場)にて開催!
公式サイト : http://unifrance.jp./festival/2015/

関連レビュー:
フランス映画祭 
フランス映画祭2015試写〜映画『ヴィオレット』text藤野 みさき