2016年1月3日日曜日

ことばの映画館《特別企画》「アピチャッポン特集」

「アピチャッポン宣言 」


どうしてアピチャッポンの特集なのかと聞かれたら、アピチャッポンが素晴らしいからだとも、好きだからとも答えない。もちろんそうした要素は大きいけれど、それが一番の理由ではないからだ。何よりもの理由は、アピチャッポンがわからないからだ。 

アピチャッポンの作品をはじめて見たときから、この作品について何を語ったところでそれが偽りになってしまうような錯覚に陥っている。あらすじを話しても、それはきっとこの作品の本質ではないし、たしかにそうした人物がいて場面はあったけれど、それを私は正しく伝えられているのだろうか。アピチャッポンの作品の中で繰り返される記憶や輪廻。それらは、境界を越え、侵食しあう。 

本当に不思議なのだけれど、胸に残るのは好きな作品ではない。それは好きも嫌いも、良いも悪いも超え、わからないもの、不気味なもの、おぞましいもののように思う。おぞましさというと、おどろおどろしく残酷なものを想起するかもしれないが、アピチャッポンのおぞましさは、なんともみずみずしく、素朴で、美しく、懐かしいような景色の中で描かれる。 

残念なことに現在アピチャッポンの作品の多くはDVD化されていないこともあり、作品を見ることが困難な状況にある中、今回の特集上映はすべての劇場長編作とアート傑作編を見ることができる貴重な機会となっている。 

この不思議な作品に私たちはどう立ち向かえばいいのだろう。神秘を帯びる物語を解体し、解釈し、その不思議を剥ぎ取ればよいのだろうか。それは絶対に違う。けれどただよくわからないとぼんやり感じていることも、等しく違うように思われる。アピチャッポンの映画を一人でも多くの人が見て、その人が考えたことを知りたいと願っている。だからどうかこの映画を見て考えてみてほしい。このわからなさに、得体の知れなさに私たちは一人でも多くの人と共に取り組みたい。アピチャッポンってなんだ? 

(text:長谷部友子)

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ことばの映画館web特別企画「アピチャッポン特集」


この度、ことばの映画館webは、アピチャッポン監督の新作上映に際し、特集を組むことに致しました。希代なる作家アピチャッポンを伝えるために、そしてこれは何よりも、私たち自らがアピチャッポン・ウィーラセタクンという一人の人間を深く探ろうとする試みなのです。

渋谷シアター・イメージフォーラムにて上映されるアピチャッポン作品の全てについてのレビューを順次公開していきます。乞うご期待!

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「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016」

全長編作品+アートプログラムを上映する特集上映

期日:2016年1月9日〜2月5日
場所:シアター・イメージフォーラム
公式サイト:http://www.moviola.jp/api2016/woods/index.html

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