2016年11月6日日曜日

第17回東京フィルメックス《ラインナップ発表》text 井河澤 智子

今年もやってきました、いよいよ東京フィルメックスのシーズンです!

17回目を迎えました東京フィルメックス。
毎年、目から鱗が落ちるような映画体験を味わうことができる映画祭です。
今年はどんなラインナップなのでしょう?

誠実で、切実で、美しき作品は、いつまでも生き続けます。
どうしても見ていただきたい素晴らしい映画、クラシックも合わせて22本を上映いたします。

驚きの連続にご期待ください。
作家たちの心を覗いていくと、世界がつながります。

  東京フィルメックス ディレクター       林 加奈子
  東京フィルメックス プログラム・ディレクター 市山 尚三

・コンペティション部門
コンペ作品は10作品。どれも「どうしても」という切実な気持ちが伝わってくる作品ばかりです。
そのうち6本が、監督の長編デビュー作。未来の巨匠が、ここにいるかもしれません。

『オリーブの山』★長編監督デビュー作
Mountain / イスラエル、デンマーク / 2015 / 83分 / 監督:ヤエレ・カヤム
厳格なユダヤ教徒の家庭で慎ましい生活を送ってきた主婦が、ある日別の世界を知ってしまう。
彼女が迫られる選択とは?

『バーニング・バード』
Burning Birds / フランス、スリランカ / 2016 / 84分 / 監督:サンジーワ・プシュバクマーラ
これも主婦の話。とてもまっすぐでシンプルな話。
内戦中のスリランカ。8人もの子を持つ平凡な主婦が、夫を民兵に殺害される。
自らも内戦を経験した監督が、暴力や女性蔑視への怒りをストレートに表現した力作。

『普通の家族』
Ordinary People / フィリピン / 2016 / 107分 / 監督:エドゥアルド・ロイ・Jr
マニラの街頭で、スリで生計を立てる、16歳と17歳のストリートチルドレンの物語。
是枝裕和監督『誰も知らない』を想起させる作品だということです。
ヴェネチア映画祭「ヴェニス・デイズ」部門で観客賞受賞。

『マンダレーへの道』
The Road to Mandalay / 台湾、ミャンマー、フランス、ドイツ / 2016 / 108分 / 監督:ミディ・ジー
ミャンマーからタイへ違法越境する途中で知り合ったふたり。しかし彼らの仕事先にも警察の捜査の手が及び……
ミャンマー出身で、現在は台湾をベースに活動するミディ・ジー監督作。
今年のヴェネチア映画祭「ヴェニス・デイズ」部門にて上映された。

『神水の中のナイフ』★長編監督デビュー作
Knife in the Clear Water / 中国 / 2016 / 93分 / 監督:ワン・シュエボー
昨年の東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞した『タルロ』のプロデューサー、ワン・シュエボーの監督デビュー作。
イスラム教を信仰する回族の人々の日常。
画面の作り方が非常に美しく、素朴で、静かで、心にしっかりしみてきます
言うまでもありませんが、「水の中のナイフ」ではありませんのでご注意を(笑)。

『よみがえりの樹』★長編監督デビュー作
Life After Life / 枝繁葉茂 / 中国 / 2016 / 80分 / 監督:チャン・ハンイ
中国の村の伝説を描いた、一種の幽霊譚。監督は、「3年間かけて作りました」とおっしゃっていたそうです。
どう見てもお金がかかっているようには見えないのに(林ディレクター談)、ゴージャスで濃密な映画的体験を味わえる作品。
ジャ・ジャンクーが若手監督作品をプロデュースする「添翼計画」最新作。

『恋物語』★長編監督デビュー作
Our Love Story / 韓国 / 2015 / 99分 / 監督:イ・ヒョンジュ
女性同士の間に展開されるラブ・ストーリー。
監督はこの題材で撮らないと先に進めなかったのだろうなぁ、という切迫感が感じられます。
サン・セバスチャン映画祭にて上映。

『私たち』★長編監督デビュー作
The World of Us / 韓国 / 2015 / 95分 / 監督:ユン・ガウン
学校で仲間外れにされがちなスン。夏休みに引っ越してきた少女ジア。
小学校高学年の少女たちの物語。子供たちの物語ではあるが、大人が観て唸る映画。

『ぼくらの亡命』
Our Escape / 日本 / 2016 / 115分 / 監督:内田伸輝
フィルメックスにゆかりの深い内田伸輝監督の最新作。
森の中で暮らす男は、美人局をさせられている女性と出会い、彼女をその境遇から助け出すため誘拐する。
「他者」への依存、「自立」とはどういうものなのか、ということを監督なりに考え抜いた作品。

『仁光の受難』★長編監督デビュー作
Suffering of Ninko / 日本 / 2016 / 70分 / 監督:庭月野議啓
異様に女性にモテるお坊さんの悩み。
自主映画で時代劇を撮るのはお金がかかるので大変だったろう、が、しかし、絵作りの技、撮影のこだわりが光る一品。

・特別招待作品
10本の作品が選ばれました。新作5本、クラシック5本です。

『THE NET 網に囚われた男』
The Net / 韓国 / 2016 / 114分 / 監督:キム・ギドク
オープニング作品。
フィルメックスでおなじみキム・ギドク監督最新作。ヴェネチア映画祭でワールドプレミア上映された。
ある事故により、国境線を超えてしまい、韓国警察に捕まってしまった北朝鮮の漁師。体制に翻弄される男の姿。
これまでのキム・ギドク作品と少し風味が異なり、がっちりとしたストーリー性を感じさせる作品。

『大樹は風を招く』
Trivisa / 香港 / 2016 / 97分 / 監督:フランク・ホイ、ジェヴォンズ・アウ、ヴィッキー・ウォン
クロージング作品。
中国返還前夜の香港。暗黒街に広まった噂で運命が一変していくギャングの人生。
実在した3人の人物にヒントを得た作品。
ジョニー・トー主宰「鮮浪潮短編映画祭」の受賞者3名を起用し、3名それぞれにパートを任せながら、編集段階で1本の作品に仕上げた、という作り方がされている。

『山<モンテ>』
Monte / イタリア、フランス、アメリカ / 2016 / 105分 / 監督:アミール・ナデリ
アミール・ナデリ監督がイタリアで撮影した作品。
あまり前情報を入れずに観て欲しい、という1本です。
ナデリらしい、何かに取り憑かれたような行動を続ける人物を描いた作品。

『エグジール』
Exile / フランス、カンボジア / 2016 / 78分 / 監督:リティ・パン
前作『消えた画』に引き続き、クメール・ルージュ時代のカンボジアを扱った、リティ・パン監督の新作。 『消えた画 クメール・ルージュの真実』 を別のアプローチで撮った作品とも言える。
カンヌ映画祭でワールド・プレミアを飾った。

『苦い銭』
Bitter Money / 香港、フランス / 2016 / 152分 / 監督:ワン・ビン
ワン・ビン監督の新作。ここ数作、雲南省を舞台に撮影してきた監督だが、今回は、故郷・雲南省を出て、紡績工場で働く少女を中心とした群像劇。ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門脚本賞受賞。

・特別招待作品 フィルメックス・クラシック

『ザーヤンデルードの夜』
The Nights of Zayandehrood / イラン / 2016 / 63分 / 監督:モフセン・マフマルバフ
『独裁者と小さな孫』のモフセン・マフマルバフ監督作品。1990年に製作されたが、検閲により、永らくイラン国内外を問わず見ることが叶わなかった幻の作品。ネガがロンドンで復元され、ヴェネチア国際映画祭で公開された。

『タイペイ・ストーリー』
Taipei Story / 台湾 / 1985 / 110分 / 監督:エドワード・ヤン
台湾ニューシネマの記念碑的な作品。エドワード・ヤン長編第1作、製作・脚本・主演はホウ・シャオシェン。今年ボローニャ市立シネマテークにてデジタル復元された。

『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿 デジタル修復版』
Dragon Inn / 台湾 / 1967 / 111分 / 監督:キン・フー
キン・フー長編第3作目。製作当時アジア各地で大ヒットを記録し、カンフー映画ブームを起こす原点となった傑作武侠映画。
(筆者としては、ツァイ・ミンリャン監督『楽日』の劇中劇のアノ映画かな、とあれこれ調べてみたのですが、確証得られず。これは自分の目で確認するしかないですね!)

『俠女 デジタル修復版』
A Touch of Zen / 台湾 / 1971 / 180分 / 監督:キン・フー
カンヌ映画祭で高等技術委員会グランプリを受賞したアジア・アクション映画の金字塔。
(会見では、ホウ・シャオシェン監督『黒衣の刺客』との関係について触れられていましたが、英語タイトルを見ると……ジャ・ジャンクー監督『罪の手ざわり』(英題: A Touch of Sin)
にも影響を与えていそうですね!フィルメックスで取り上げられるべくして取り上げられた作品ではないでしょうか。)

『ざ・鬼太鼓座』デジタルリマスター
The Ondekoza / 日本 / 1981 / 105分 / 監督:加藤泰
和太鼓の芸能集団「鬼太鼓座」の活動を追った傑作ドキュメンタリー。
生誕100年を迎えた巨匠・加藤泰の遺作。
諸般の事情により一般公開されることはなかったが、本年度ヴェネチア映画祭クラシック部門でワールド・プレミアを飾った。

・特集上映 イスラエル映画の現在

『山のかなたに』
Beyond the Mountains and Hills / イスラエル、ベルギー、ドイツ / 2016 / 90分 / 監督:エラン・コリリン
『迷子の警察音楽隊』のエラン・コリリン監督作。善意のもとに暮らす家族の日常の中に、イスラエルが抱える矛盾を描く。

『ティクン〜世界の修復』
Tikkun / イスラエル / 2015 / 120分 / 監督:アヴィシャイ・シヴァン
ロカルノ映画祭審査員特別賞受賞。昏睡状態に陥ったユダヤ教神学校生が意識を取り戻した時、彼の人格は変わってしまっていた。
「ツァイ・ミンリャンにも匹敵するような」強烈なイメージで描かれる、アヴィシャイ・シヴァン監督の2作目。

上映作品22本すべてご紹介いたしました。
正直、濃密すぎるラインナップだと思いました。圧倒されます。
林加奈子ディレクターは、
「それぞれの監督の考えで作った映画だが、全体を通してみると繋がりが見えてくるかもしれない。」と語ります。
それぞれの監督がそれぞれの意図で作った映画が、有機的なつながりを持って立ち上がってくる。
映画祭とは、現在の「世界」を垣間見せてくれる場所なのかもしれません。

今年も素晴らしい映画との出会いがありそうです。

(text:井河澤智子)

第17回東京フィルメックス

公式サイト
http://filmex.net/2016/

開催情報
2016年11月19日(土)〜2016年11月27日(日)

開催会場
有楽町朝日ホール
TOHOシネマズ 日劇 

上映作品一覧
・東京フィルメックス コンペティション 
http://filmex.net/2016/program/competition
・特別招待作品
http://filmex.net/2016/program/specialscreenings
・特集上映 イスラエル映画の現在
http://filmex.net/2016/program/sp1

上映スケジュール
http://filmex.net/2016/schedule

チケット情報
http://filmex.net/2016/ticket
11月3日より発売開始!
今年からチケット発売方法が変わりました!
詳細は上記公式サイトをご覧ください。

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【執筆者プロフィール】

井河澤 智子 Ikazawa Tomoko

本当に毎年映画祭のシーズンが楽しみで仕方がありません。
毎年やくたいもない文章を書いておりますが、
「またこいつか」程度に読み流していただければ……と思います。

さて。
毎年、東京フィルメックスでは「くぅぅもういちど観たぁぁい!」という作品があらわれますが
昨年の「ふわぁぁぁ」な1本に、チャン・ツォーチ監督『酔・生夢死』をあげたいと思います。
最終日、日曜の夜、最後の上映なんで観ておくか、程度の気持ちで観て、
まんまとノックアウトされました。ふわぁぁぁ!

ああ、またどこかで上映されないかなー。
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