©Yash Raj Films
「我儘VS傲慢」
「俺の人生だ、5秒すら君にやる義務はない」
この言葉を吐き捨てたのは大スター、アールヤン・カンナー、相手の「君」は熱烈すぎるファン、ゴウラヴ・チャンドナー。物語前半のこの台詞を境に両者の生活、人生は一変する。世に言うバディムービーは大抵、対照的な二人を揃えるがこの二人はどうか。そもそも実際の大スター、舞踊が本当に見事なシャールク・カーンの一人二役で、外見や内面の相違点と共通点を見事に演じている。相違点は、孤高の大スターとその大スター中毒のファンであること。しかも症状は深刻だ。共通点は自分の意思は絶対に曲げない頑固さと、攻撃に転じると容赦ないことだろう。対照的かつ似通った二人、大スターと熱烈すぎる「狂気」のファンの、まさに「逆バディムービー」だ。
狂気のファン、ゴウラヴは我儘である。「たった5分会って写真を撮れれば幸せ」という欲求を満たすためなら、人として許されない一線を超える。情報収集能力は諜報機関並ではないだろうか。結果、家族の様になりたいと思っていた大スターに嫌がらせをして執拗に追い回す。一方、大スター、アールヤンは「ファン無しではただの男です」という言葉が上っすべりに思えるくらい傲慢である。新進気鋭の後輩の役者を憤慨させるし、釈明会見でさえ上から目線、筋は通しているし間違ってはいないが、大スターはそれでは足らないということだろう。
こうなると、どっちもどっちのトンデモ話のようだが、それは違う。この事態に至る、各々の事の次第と経過が、丁寧に描かれているから、必ずどちらかに肩入れしたくなる。後半、ゴウラヴがアールヤンを追い詰めていく姿はまさにサスペンス、そしてアールヤンもやられてばかりではいない、情報や資料を収集される立場の大スターは、受け身にならざるを得ず不利だ。しかし、攻勢に転ずれば立場は逆となり、「自分」を敵に回していることがお互いにとって諸刃の剣となる。アクションも見事で、一人二役の追っかけっこは、逃げるのも追うのも闘う迫力も香港映画に負けず劣らずだ。
ゴウラヴの場合は、愛情というか執着であるが、こういった感情が極まると相手が異性でも同性でもスターでも同じような境地に達するのかもしれない。かつて、「ナイフならあなたを傷つけながら折れてしまいたい」というフレーズの歌詞があったが、まさにそれである。男性だけかもしれないが失恋は忘れ難いものだ。人の心に自分を深く意識づけるには、相手の心を傷つけるのが手っ取り早い方法と言わんばかりである。
我儘か傲慢か、観客は後半必ずどちらかに肩入れしている自分に気づくだろう。友達、家族、パートナーいずれにせよ誰かと見るのをお薦めする。それはきっと、他の人の感想を聞きたくなるからである。
(text:今泉健)
『ファン』
原題:Fan2016/ インド/ 138分
作品解説
最高のファンが最悪の敵に!「ボリウッド・キング」シャールク・カーンが、自身の投影のようなスーパースターと、特殊メイクでその狂信的な「ファン」の二役を演じるスリラー。二人のどちらに感情移入するかで、作品の見方が大きく変わる。
デリーの下町に暮らす青年ゴウラヴは、映画界のスーパースター、アーリヤン・カンナーの熱狂的ファン。ある出来事をきっかけに、ゴウラヴはアーリヤンと念願の対面を果たすが、アーリヤンに「お前は俺のファンなんかじゃない」と拒絶される。その日からゴウラヴはアーリヤンを狙うストーカーへと変貌していく。
デリーの下町に暮らす青年ゴウラヴは、映画界のスーパースター、アーリヤン・カンナーの熱狂的ファン。ある出来事をきっかけに、ゴウラヴはアーリヤンと念願の対面を果たすが、アーリヤンに「お前は俺のファンなんかじゃない」と拒絶される。その日からゴウラヴはアーリヤンを狙うストーカーへと変貌していく。
キャスト
シャールク・カーン
ワルーシャー・デスーザ
シュリヤー・ピルガオーンカル
サヤーニー・グプター
監督:マニーシュ・シャルマー
ワルーシャー・デスーザ
シュリヤー・ピルガオーンカル
サヤーニー・グプター
スタッフ
監督:マニーシュ・シャルマー©Indian Film Festival Japan 2016 |
日本未公開の最新インド映画を上映。インドと日本、両国の人々の交流と友好を深めることを目的とした映画祭。東京会場は、2016年10月7日(金)~10月21日(金)まで、ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催。大阪会場は、2016年10月8日(土)~10月21日(金)まで、シネ・リーブル梅田にて開催。
開催期日/場所
東京:10月7日(金)~10月21日(金)/ ヒューマントラストシネマ渋谷
大阪:10月8日(土)~10月21日(金)/シネ・リーブル梅田
【執筆者プロフィール】
大阪:10月8日(土)~10月21日(金)/シネ・リーブル梅田
公式ホームページ
http://www.indianfilmfestivaljapan.com/index.html
©Indian Film Festival Japan 2016
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今泉健:Imaizumi Takeshi
1966年生名古屋出身 東京在住。会社員、業界での就業経験なし。映画好きが高じてNCW、上映者養成講座、シネマ・キャンプ、UPLINK「未来の映画館をつくるワークショップ」等受講。現在はUPLINK配給サポートワークショップを受講中。映画館を作りたいという野望あり。
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1966年生名古屋出身 東京在住。会社員、業界での就業経験なし。映画好きが高じてNCW、上映者養成講座、シネマ・キャンプ、UPLINK「未来の映画館をつくるワークショップ」等受講。現在はUPLINK配給サポートワークショップを受講中。映画館を作りたいという野望あり。
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