「ベトナムの大地から広がる人間の深い愛」
それはティエウの視線で表現されている。ムーンに惹かれ、心を奪われたような儚い表情でムーンを見つめるティエウの視線には、人を思うことに目覚めたティエウの純粋さが感じられる。また、ムーンがトゥオンと仲良くしているところを陰で見つめるティエウの冷たい視線には、戦慄を覚えるような禍々しさが感じられる。
思春期の子ども特有の複雑な心の揺れを、この映画はベトナムの広大な大地を舞台に、素朴に自然な形で表現していて味わい深い。
深く後悔するティエウは、ムーンと仲良くなっていくトゥオンが許せず冷たく接したり、意地悪したりしたことを思い出す。しかし、純粋なトゥオンは傷つけられてもティエウを愛し続けていた。トゥオンの純粋な愛情に心を打たれたティエウは、思春期の複雑な心理状態から人を思いやる大人の心に目覚めていく。
物語の後半は、ティエウの初恋の物語からトゥオンへの贖罪の物語に移り変わり、映画の風情もノスタルジーからファンタジーの色合いにシフトしていく。この突然の変容も自然で違和感なく、観る者を魅せて飽きさせない。
映画の最先端を行くハリウッドで映画製作を学んだヴー監督は、間違いなくベトナム映画界に新鮮な風を呼んだといえる。かつてアメリカ映画がフランスのヌーヴェル・ヴァーグに影響を与え、フランス映画の時代が進展したように、ベトナム映画も新しい時代に進もうとしているのかもしれない。『草原に黄色い花を見つける』は、新しい時代に力強く進もうとする意志に溢れながらも、その内面は人間の深い愛を描き抜いた真に美しい映画だ。
(text:成宮秋祥)
『草原に黄色い花を見つける』
2015/103分/ベトナム
2015/103分/ベトナム
監督:ヴィクター・ヴー
公式ホームページ:http://yellow-flowers.jp/
劇場情報
8月19日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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【執筆者プロフィール】
成宮 秋祥:Akiyoshi Narumiya
1989年、東京都出身。映画オフ会「映画の或る視点について語ろう会」主催。映画ライター(neoneoweb、映画みちゃお!、ORIVERcinema寄稿)。
8月19日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
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【執筆者プロフィール】
成宮 秋祥:Akiyoshi Narumiya
1989年、東京都出身。映画オフ会「映画の或る視点について語ろう会」主催。映画ライター(neoneoweb、映画みちゃお!、ORIVERcinema寄稿)。
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