2015年6月12日金曜日

映画『サンドラの週末』text今泉 健

「直接民主主義の行方」

 民主主義では多数決という意思決定方法をとることが通例である。多数決とは「会議で多数者の意見によって議案の採否を決する方式」とある。僅かな差でも意思決定がされてしまうリスクは否めないが、民主主義下では結果と同じくらいその過程が重要視される手法となる。お互い議論をしながら時に信頼関係が醸成されることもある。また、民主制には間接、直接と2種類ある。国レベルではほとんど間接制で、直接制の採用はないが、先日の大阪都構想の住民投票が1例として挙げられる。一人ひとりが直接意思決定に参加する制度である。
 
 体調不良で休職中のサンドラ。復職が見えてきた矢先の金曜日、突然のリストラ宣告を受ける。同僚の計らいで週明けの月曜日の職場全員による投票まで結果が持ち越されたものの、サンドラの復職か彼ら自身のボーナスかという非情な二者択一が条件となった。夫とは共働き、子供が二人、マイホームを手に入れた直後だったため、週末を使って同僚たちを説得することになる。まだ、体調が万全でなく悲観的で自信喪失気味のサンドラを夫のマニュが支える。話の舞台はベルギーだが、EUの本拠地がある国でこんな解雇がまかり通ってしまうのかと不思議だ。ただ、条件は苛酷だが職場全員の投票での多数決、直接民主制的手法が落としどころなのはさすが民主主義の伝統国。たぶん日常的なのだろう。
 
 サンドラは、「皆に嫌われた挙句にクビになりかねない」という大きなリスクを抱えながら、それでも「ボーナスを放棄して、清き1票を私に」という苛酷な選挙運動に乗り出した。影響力のありそうな人からとか効率も考えず、愚直なまでに1人づつ説得する。これは彼女と支える夫の「勇気」以外の何物でもない。蛮勇にさえ見えるこの「勇気」は同僚達の心を動かす。直接の働きかけが効果的なのは洋の東西を問わないようだ。そして気力を振り絞り頑張った彼女は「選挙活動」を始める前は思いもしなかったご褒美を得ることになる。この尊さが清々しい鑑賞後感の源である。
 
 もちろん週末の勇気だけで何かが為せるわけではなく、今までの行動が物をいう。まさに情けは他人の為ならずである。しかし必ず白黒がつく苛酷な状況があったからこそ、勇気を奮うことになり、ご褒美にありつけたとも言えるのだ。まさにこれこそ民主主義社会における童話ではないだろうか。ダルデンヌ兄弟に拍手。

サンドラの勇気度:★★★★☆
(text:今泉 健)



映画『サンドラの週末』


2014/ベルギー=フランス=イタリア/95分

作品解説
体調を崩し、休職していたサンドラ。回復し、復職する予定であったが、ある金曜日、サンドラは上司から突然解雇を告げられる。 解雇を免れる方法は、同僚16人のうち過半数が自らのボーナスを放棄することに賛成すること。 ボーナスか、サンドラか、翌週の月曜日の投票に向けて、サンドラが家族に支えられながら、週末の二日間、同僚たちにボーナスを諦めてもらうよう、説得しに回る。

出演
サンドラ:マリオン・コティヤール
マニュ:ファブリツィオ・ロンジォーネ
エステル:ピリ・グロワーヌ
マクシム:シモン・コードリ

スタッフ
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
助監督:カロリーヌ・タンブール
撮影監督:アラン・マルコアン(s.b.c)
カメラマン:ブノワ・デルヴォー
カメラマン助手:アモリ・デュケンヌ
編集:マリ=エレーヌ・ドゾ
音響:ブノワ・ド・クレルク
ミキシング:トマ・ゴデ
美術:イゴール・ガブリエル
衣装:マイラ・ラムダン=レヴィ
メーキャップ:ナタリ・タバロー=ヴュイユ
ロケーション・マネージャー:フィリップ・トゥーサン
ユニット・プロダクション・マネージャー:フィリップ・グロフ
スチール:クリスティーヌ・プレニュヌ
制作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ、ドニ・フロイド
エグゼクティヴ・プロデューサー:デルフィーヌ・トムソン
共同製作:ヴァレリオ・デ・パロリス、ピーター・ブッケルト
製作協力:アルレッテ・ジルベルベルク

公式ホームページ:http://www.bitters.co.jp/sandra/

劇場情報:Bunkamura ル・シネマ、他、劇場にて公開中

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