2015年11月17日火曜日

第28回東京国際映画祭 ~『FOUJITA』記者会見~ text 藤野 みさき

【東京国際映画祭 ~『FOUJITA』記者会見~】


(写真左から 小栗康平監督、オダギリジョーさん、中谷美紀さん、クローディー・オサールさん)

 今月11月14日(土)に劇場公開を控える『FOUJITA』。パリが愛した日本人画家・藤田嗣治の半生を描いた本作は、『埋もれ木』以来、実に10年振りの小栗康平監督の最新作である。主演の藤田を務めるのは、俳優のオダギリジョー。藤田に連れ添う最後の伴侶・君代を、女優の中谷美紀が演じる。

 今年の東京国際映画祭のコンペティション部門に選出された本作。ワールド・プレミアの迫った、2015年10月26日(月)六本木アカデミーヒルズにて記者会見が行われ、監督の小栗康平をはじめ、オダギリジョー、中谷美紀、そしてフランスからは『アメリ』等のプロデューサーを務めたクローディー・オサールが登壇し、それぞれが作品に対する思いを語った。

 (小栗康平監督)

 「実在した人物ではありますが、伝記的な映画としては作っておりません。1920年代のパリと、40年代の戦時の日本を、文化の違いと歴史の違いを浮かび上がらせるつくりになっています」と、小栗康平監督は『FOUJITA』で描かれている世界をこのように説明する。

 (会見中も笑顔をみせるオダギリジョーさん)

 続いて、主演のオダギリジョーは「小栗監督が10年ぶりに映画を作られるということで、声を掛けて頂いたことを本当に光栄に思いました」と、喜びをあらわにした。しかし画家の藤田嗣治については「正直、藤田という画家についてはあまり知りませんでしたし、それほど……いまだに興味がある訳ではない」と発言し、「ただただ小栗監督の作品に関わりたいと思ったことが正直なところです」と、場の雰囲気を和ませていた。完成した作品については「本当に久しぶりに良い映画を観たな。と思いましたし、監督のおかげですごく良い俳優としてそこに存在することができて嬉しく思います」と、感謝の気持ちを述べていた。

 (中谷美紀さん)

 藤田の妻・君代を演じた中谷美紀は「オダギリジョーさんは、まるで藤田の生き写しのように、この映画の主軸として存在してくださっています。私は五番目の妻でありましたが、ただただ現場にいさせて頂けるだけで幸せでした」と丁寧に挨拶をしたのち、フランスの現場についても「スタッフの皆様が小栗、小栗と監督を慕っていらっしゃいましたし、オダギリジョーの仏語が素晴らしいと、周囲が賞賛していることが、同じ日本人として誇りに思いました」と言葉を続けた。

 (写真左から 小栗康平監督、オダギリジョーさん、中谷美紀さん)

 会場からの質疑応答の前に、この作品を監督する一番の動機について聞かれた小栗康平監督。この質問について監督は「私は1945年に生まれて、今年で70歳になります。35歳で世の中に出てから、約半分掛かって藤田に『辿り着いた』という印象でしょうか。藤田は矛盾の多い人生を過ごした人だと思っています。戦争の多い二十世紀を生きたゆえに多くのことを抱えてしまった人物を、戦後70年という機に撮ることができた。その喜び、でしょうか」と回答する。

 又、劇中で見事な仏語を披露した、オダギリジョー。その仏語の習得方法については「ほとんど丸暗記をしました。そしてそこからどう感情をもった自然な仏語に仕上げていくのかという過程を踏みました。ですから、文法も習っていませんし、単語すら分かっていないかもしれません」と語った。

 画家としての藤田嗣治について、フランスではどのくらいの知名度があるのかということを聞かれたクローディー・オサールは「藤田は本当にフランスでは有名で、人々に愛されている画家です。しかし映画の後半で描かれていた、日本に戻ってからどのような作品を描いていたのか、ということについては知られていませんでしたので、私自身も、彼の後半の人生を知ることができて大変嬉しかったです」と語った。

 中でも、劇中、藤田に向かって「布に例えるなら、私はどんな女かしら?」という台詞が印象的であった妻・君代。彼女を演じるにあたり、どのような女性を想像して演じたのか? という質問を受けた中谷美紀は「晩年の教会の壁画には藤田と共に君代の姿も描かれていたものの、なかなか資料がなかったものですから、小栗監督の書かれた脚本をすくいとるようにして演じました。藤田は希代の天才ですので、その御方の傍にいて、自分は何もできないけれども、せめてこの画家の美意識にそぐう人間でありたいと務めている姿。しかし、そう願いながらも、藤田の自由さに踏み込めない壁をも感じました」と、喜びを表現しながらも、同時に役作りについての難しさを振り返る。

(オダギリジョーさん)

 同じく役作りについて訊かれた、オダギリジョー。その役作りに関しては小栗康平監督を信頼するがゆえの「ほぼ丸投げ」であったという。その発言について、小栗康平監督はこう付け加える。「私は芝居についてこうしてください、と指示をしたことはないのです。それよりも考え方を話し合うことを大切にしてきました。さきほどのオダギリ君の『丸投げ』という発言は決してマイナスではありません。寧ろ俳優さんが監督に身を預ける、というのは、実はとても勇気のいることなのです。俺が俺が、と芝居をすることほど簡単なことはありません」

 「実は僕もオダギリ君と一緒に仏語を学んだのですが、僕が大学生の時の第一外国語は仏語を専攻していました。でも10までしか数えられなかったんです(笑)いつまで経っても覚えられない。ところがオダギリ君の場合は「音」としてことばを捉えることができる。分析をせず、丸ごと自分の中に取込める人なのです。それはオダギリ君の全ての芝居に言えることだと思うのですが、フジタをこれこれこういう人物で……と分析をして演じるのではなく、彼の佇まいを感覚的に捉えて演じることのできる役者なのです。このようなことができる役者はとても少ないのです。オダギリ君は自分の身体の全体から芝居を打ち込む、という、とても難しいことをやっている一人の俳優だと僕は思っています」と、改めて、オダギリジョーという役者を非常に高く評価した。

 戦前のパリ、戦中の日本。激動の時代を生きた藤田嗣治の半生を、見事な映像美で描いた映画『FOUJITA』。東京国際映画祭、開幕時のレッド・カーペットにて、小栗康平監督が言ったことばを、私は今でもとてもよく覚えている。彼は本当に嬉しそうに、柔らかな笑みを浮かべて、このように述べていた。

 「オダギリ君は、ほんと、よくやってくれました。ほんとうに、いい映画ができたね」

(小栗康平監督)

小栗監督、ありがとう!度:★★★★★
(text: 藤野 みさき)

関連記事:第28回東京国際映画祭 〜『FOUJITA』小栗康平監督 Q&A 〜 【小栗康平監督の語る『FOUJITA』制作の背景、映画への思い】text:岡村 亜紀子



『FOUJITA』

2015/日本、フランス/126分

作品解説

パリが愛した日本人、レオナール・フジタ。フランスと日本、そして戦争という時代に生き、画家を全うしたフジタ。 その知られざる世界を、『埋もれ木』以来10年振りとなる小栗康平監督が静謐な映像美で描いた。

出演

藤田嗣治:オダギリジョー
君代:中谷美紀
ユキ:アナ・ジラルド
キキ:アンジェル・ユモー
フェルナンド:マリー・クレメール
寛治郎:加瀬亮
おばあ:りりィ
清六:岸部一徳

スタッフ

監督・脚本・製作:小栗康平
製作:井上和子、クローディー・オサール
音楽:佐藤聰明
撮影:町田博
照明:津嘉山誠
録音: 矢野正人
美術:小川富美夫
美術:カルロス・コンティ

公式ホームページ

映画『FOUJITA』公式サイト

劇場情報

角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

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