2016年6月22日水曜日

フランス映画祭2016〜映画『ショコラ!(仮題)』評text大久保 渉

「共に脈を打つ心臓」

忘れられるはずがない。彼らが生きたそのすがたを。体中が、覚えている。笑い疲れた口と頬。泣きはらした瞼と潤う瞳。緊張で力強く握った両のこぶし。小躍りしたくなる気持ちを抑えた両の足。彼らの動きに魅了され、彼らの言葉が耳に残り、彼らの人生の一端が体中をめぐってわたしの心臓を熱く激しく打ち鳴らす。

気難しげな痩せた白人と、ニンマリ笑った大柄な黒人。フティットとショコラ。1900年代初頭のフランスで大人から子どもまでたくさんの観客たちを笑わせた異色の芸人コンビ。映画は実在したふたりの生涯に光をあて、その歴史の淵に埋もれてしまった類まれなる軌跡を映しだす。

本作でショコラを演じたのは、『最強のふたり』(2011)でセザール賞主演男優賞を受賞したオマール・シィ。その後『サンバ』(2014)、『ジュラシック・ワールド』(2015)と続けてヒット作への出演を果たしてきた彼は、インタビューでこう語る。

「今後、みんなに覚えていてほしい。僕の前にショコラがいたことを―」。

画面から伝わってくるのは、全力の、ひたすら前に突き進むエネルギー。奴隷の息子として生まれたショコラ。黒人への偏見が強く残る当時のフランスで、出し惜しみなんかしちゃいられない。どれだけ喝采を浴びようとも、不当に牢屋にぶち込まれようとも、喜びも苦しみも焦りも怒りも、すべてを力に生きていく。そこに、俳優・オマールの演技が重なり合う。大きく口をあける豪快な笑顔。ギロリと目をむく怒りの形相。感情の爆発。ショコラのすべてが、私の瞳をひきつける。自分をさらけだすことへの憧れと、留まることを知らない欲求への胸苦しさと。ただそうして道を切り開く男がいるということに、魅了させられてしまう。

Photographe Julian Torres © 2015 Mandarin Cinéma – Gaumont

そしてそれはフティット、ならびに彼を演じたジェームズ・ティエレにも同様のことが言える。古臭い芸でクビ寸前の熟練芸人・フティット。かの喜劇王チャールズ・チャップリンの実孫であるティエレ。自信と恐れがないまぜになったその瞳。成功か、どん底か。今この瞬間にできることを、あますことなく出しつくす。

その偏狭な物腰は、時にエゴのようにも見えるけれども、舞台に立っているその瞬間が、ただ楽しくて仕方がないのだろう。ショコラと共に舞台に立ち、観客を笑わせるそのひとときが。

張り裂けんばかりのわめき声。身体をふりまわすオーバーなアクション。ショコラのケツを、蹴りあげる。蹴って、蹴って、笑いをとる。横暴な男の顔。ただその内にひそむ男の繊細な瞳。ふっと伸ばしたその手の平は、ショコラの頭を鷲づかみにしようとしていたのか。それとも優しく撫でようとしていたのか。器用な身体に不器用な心をもつその男の横顔が、私の瞳を捉えてはなさなかった。

一時代を築き上げたフティットとショコラ。お互いを認め合い、競い合い、笑い、罵り、涙を共にしたふたり。たとえ困難な状況にぶつかっても、ふたりの心臓は共に脈を打ちつづける。

そう。それは必然なのだろう。力の限り生き抜いたふたりの生涯は、時代を超えて、世界を超えて、再び歴史の奥底から立ち現れる。華やかに燃えた火花のくすぶりが、そう簡単には消えないのと同じように。やがて誰かの目にとまり、風を受け、再燃する。そして観る者の心を熱くたぎらせ、刺激する。

「今日をよりよく生きるためには、過去を知ることがとても大切だと、僕はいつも思っている」。

インタビューでこう語っていた本作の監督・ロシュディ・ゼムもまた、胸を熱くたぎらされたひとりなのだろう。

(text:大久保渉)




『ショコラ!(仮題)』
原題:Chocolat
2015年/フランス/119分
(上映日時:6/26(日)14:10、会場:有楽町朝日ホール)

作品解説
物語の舞台1900年初頭フランスで、ショコラという愛称で親しまれたフランス史上初の黒人芸人と、かつて名声を博した白人芸人、フティットの黒人・白人デュオが巷を騒がせていた。デュオ結成後、パリの名門ヌーヴォー・シルクのステージに立ち、順調にキャリアを積み上げる2人。しかし、当時は未だ人種差別が根強く、ショコラもその標的となってしまう。奴隷の子として生まれ、育ち、そしてその努力と勇気で夢を叶えたショコラと、その成功の陰で彼を見出し、支え、共に苦難と名声を分かち合ったフティットの2人を描いた感動の実話。ドキュメンタリー映画の元祖、リュミエール兄弟作品に出演し、名実ともにフランスを代表する芸人だった2人を、『最強のふたり』のオマール・シィとチャップリンの実孫、ジェームス・ティエレが演じ、俳優としても活躍するロシュディ・ゼムが監督を務めた。

キャスト
オマール・シィ(ショコラ)
ジェームス・ティエレ(フティット)
クロティルド・エスム
 
スタッフ
監督:ロシュディ・ゼム

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

劇場情報
2017年、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショーにて公開予定

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【執筆者プロフィール】

大久保渉 Wtaru Okubo 
1984年、座間市生。フリーの無職。3つの映画系Web媒体で執筆中。SKIPシティ/しんゆり/三鷹/IFFJ/各種映画祭でお手伝い中。映画の宣伝に初挑戦中。お仕事募集中。
Twitterアカウント:@OkuboWataru 

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フランス映画祭2016



 毎年初夏に開催され、⼤勢の観客で⼈気を集めているフランス映画祭。2012年より地方でも開催され、今年も福岡、京都、⼤阪で開催されます。今年はキャッチコピーに「フレンチシネマで旅する4日間 in 有楽町」を掲げ、多様なシチュエーションの中を旅するような、13作品のラインナップとなっていますが、ほぼ半数の6作品が⼥性監督によるものであることが特徴的です。オープニング作品は、カトリーヌ・ドヌーブが主演を 務める『太陽のめざめ』。その他、10年振りの来日となる今年の団⻑・イザベル・ユペールの出演作『愛と死の谷』と『アスファルト』や、今年亡くなったジャック・リヴェット監督の追悼上映として、デビュー作『パリはわれらのもの』が デジタルリマスター上映されます。
 映画祭に花を添える⼒強いゲスト陣は、オープニング 作品『太陽のめざめ』の監督であり『モン・ロワ(原題)』の主演⼥優でもあるエマニュエル・ベルコ、今年のカンヌ映画祭の オープニングの司会を務める予定となっている俳優ローラン・ラフィット、など多彩で豪華な顔ぶれが揃います。24日に行われるオープニングセレモニーでは、来日するゲストに加え、今年のカンヌ国際映画祭〈ある視点部門〉に『海よりもまだ深く』が正式出品された是枝裕和監督と、最新作『淵に立つ』が同部門の審査員賞に輝いた深田晃司監督が登壇します。その他、作品上映時に行われるトークショーでもゲストとの交流を楽しむことが出来ます。
 また、アンスティチュ・フランセ日本では「恋愛のディスクール 映画と愛をめぐる断章」と題して、恋愛にまつわる作品を特集し、20〜30年代から現在にいたるまで撮られた恋愛映画の特集上映が7月まで行われています。
 是非、素敵なフランス映画と出会いに劇場に足を運んでみてください。

〈開催概要〉
開催日程:6/24(金)〜27(月)
会場:有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ 日劇
公式サイト:www.unifrance.jp/festival
Twitter:@UnifranceTokyo
Facebook:https://www.facebook.com/unifrance.tokyo

*上映スケジュール
http://unifrance.jp/festival/2016/schedule

主催:ユニフランス
共催:朝日新聞社
助成:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
協賛:ルノー/ラコステ/エールフランス航空
後援:フランス文化・コミュニケーション省-CNC/TITRA FILM
特別協力:TOHOシネマズ/パレスホテル東京
Supporting Radio:J-WAVE 81.3FM
協力:三菱地所/ルミネ有楽町/阪急メンズ東京
運営:ユニフランス/東京フィルメックス
宣伝:プレイタイム


特集上映「恋愛のディスクール 映画と愛をめぐる断章」
会場:アンスティチュ・フランセ東京
http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1604150709/

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