2016年6月14日火曜日

【特別寄稿】映画『マクベス』評text村松 健太郎

「神話を具現化する男 マイケル・ファスベンダー 」

「マクベス」(吉本興業初の配給外国映画だそうだ)が映画化されるという話を聞いた時、今更?という思いが出た。
いうまでもなく「ハムレット」などの4大悲劇や「ロミオとジュリエット」で知られる16世紀の劇作家ウィリアム・シェイクスピアの代名詞的な代表作である。
日本でも年に数回は公演がある。
しかし、それをストレートに映画化するとなるとどうなのかと思った。
「ロミオとジュリエット」などは極端な例だが、シェイクスピア的要素は様々な形で映画の物語の中に取り込まれている。要は、「マクベス」や「ハムレット」というタイトルではないけれど、そのアダプテーション作品として多くの形で世に出ている。
そこに改めて「マクベス」を「マクベス」というタイトルで映画にすることにそこまでの意味を見いだせなかった。
ところが、主演がマイケル・ファスベンダーということで一気に興味を引いた。


象徴的なハリウッドデビュー進出作

アイルランド系ドイツ人(母方の先祖にはアイルランド独立運動の闘士マイケル・コリンズがいる)のマイケル・ファスベンダーはイギリスでのTVドラマなどを経てザック・スナイダー監督・フランク・ミラー原作のアメリカンコミックの映画化『300 スリーハンドレッド』でハリウッドデビューを果たした。
『300 スリーハンドレッド』では決して大きな役ではなかったものの、彼のその後のフィルモグラフィーを見ていくと、端的に彼を表す作品だと思う。
ヘロドトスの「歴史」に記されたペルシア軍の侵攻に対抗するスパルタ軍の勇猛ぶりを描いたアメリカンコミック(グラフィックノベル)を基にした映画である。
“神話的な歴史的事象を描いたアメリカンコミック”。ここまで神話的、寓話的と言っていいもののもないだろう。


神話・寓話の世界を具現化する男 

今年日本では3本の作品が公開されるオスカーレースに絡んだ『スティーブ・ジョブズ』、本作『マクベス』、そして人気アメコミシリーズの集大成『X-MEN:アポカリプス』。
まるで『300 スリーハンドレッド』の構成要素を三分割したような映画である。
『スティーブ・ジョブズ』は実在の人物を描いた物語ではあるけれど、スティーブ・ジョブズ本人の世界的なとらえ方、そして映画での描き方ともにアメリカの歴史上の偉人・アップル史・IT史おける伝説的な人物を描いた物語になっている。
本作『マクベス』は前述通り世界の演劇史を代表する劇作家シェイクスピアの代表作の映画化である。
そして、『X-MEN:アポカリプス』は長い歴史を持つアメリカンコミックシリーズの映画化シリーズの最新作である。
これ以前にも『X-MEN』では悲しい過去とX-MENの創設者プロフェッサーXとの愛憎半ばの関係を持ち、物語の一方の牽引役でもあるマグニートー=エリックを2度演じ。
『FRANK フランク』では着ぐるみ・張りぼて人形の巨大のお面をかぶり続けるバンドマンFRANKを演じた。
『SHAME シェイム』ではSEX依存症に苦しむ男が日常を崩壊していくさまを演じた。
そして来年待望の新作が公開予定の『エイリアン:コヴナント』では『プロメテウス』に続いて出演している。
アメリカンコミック、シュールなコメディドラマ、そして長い歴史の中で神話的に膨れ上がったSFと神話・寓話が続く。
このような物語は、演じ手のやり方次第では途端に空虚なものになる。あくまでも架空の物語ではあるもののどこかで我々と地続きの部分を感じさせてくれないと、一気に物語との距離感を感じ、感情移入がしにくくなる。
これをファスベンダーが演じるとなると、要所要所で地に足をつけて、我々にはない話であると分かっていながらも、どこか物語の中に自分と重なる部分を感じさせてくれることがある。


そして、『マクベス』

監督のジャスティン・カーゼルがファスベンダーの出演がなければ映画の撮影自体がなかったかもしれなかったと語っているが、それは彼のこれまでの出演作品とその成功の度合いを見ていけば、納得のコメントである。
相手役マクベス夫人を『エディット・ピアフ』『ミッドナイト・イン・パリ』『ダークナイト ライジング』と、どこかファスベンダーのフィルモグラフィーと重なる部分のあるマリオン・コティヤールが演じているのも良い。
下手に現代劇にアダプテーションしたりせず、ストレートに映像化した本作。
21世紀のシェイクスピアを劇場で堪能してみよう。

(text:村松 健太郎)







映画『マクベス』
原題:『Macbeth』
2015年/113分/イギリス

作品解説
「ハムレット」「オセロー」「リア王」と並ぶ、シェイクスピアの4大悲劇のひとつとして知られる「マクベス」を映画化。中世スコットランドを舞台に、勇敢で有能だが、欲望と野心にとらわれた将軍マクベスが、野心家の妻とともに歩んだ激動の生涯を描き、2015年・第68回コンペティション部門に出品された。

キャスト
マクベス:マイケル・ファスベンダー
レディ・マクベス:マリオン・コティヤール
マクダフ夫人:エリザベス・デビッキ
バンクォー:パディ・コンシダイン
マクダフ:ショーン・ハリス

スタッフ
監督:ジャスティン・カーゼル
製作:イアン・カニング、エミール・シャーマン、ローラ・ヘイスティングズ=スミス
製作総指揮:テッサ・ロス

配給:吉本興業

劇場情報
TOHOシネマズシャンテ他全国公開中

公式ホームページ
http://macbeth-movie.jp


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【執筆者プロフィール】

村松 健太郎 Kentaro Muramatsu

脳梗塞との格闘も10年目に入った映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年初頭から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。12年日本アカデミー協会民間会員・第4回沖縄国際映画祭民間審査員。15年東京国際映画祭WOWOW賞審査員。現在NCW配給部にて同制作部作品の配給・宣伝、イベント運営に携わる一方でレビュー、コラム等を執筆。

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2 件のコメント:

  1. 私もなぜ今さら「マクベス}?と思いました。ファンベンダー有きの企画だったんdすね。

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    1. pocoさん

      コメントをありがとうございます!
      はい、仰る通りです。私もなぜマクベスなのか?
      同じように感じましたのでよくわかります。

      pocoさんも本作をご覧になられましたら是非ご感想などお聞かせ願いたいです。

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