2016年9月25日日曜日

【特別寄稿】映画『ケンとカズ』評text成宮 秋祥

「 逃れられない友情 」


 今年は邦画が熱い。それは多くの映画人が認めている事だろう。その中でも特に記憶に残る映画に、この夏偶然にも出会ってしまった。それが『ケンとカズ』である。監督を務めた小路紘史は全くの無名であったが、本作のずば抜けた完成度の高さもあって、瞬く間に注目を集める事となった。

 現代社会の裏側で麻薬密売を行う二人の若いチンピラを描いた至極シンプルな物語ながら、観る者が思わず圧倒される緊張感あふれる映像に視線が釘付けとなった。低予算の映画ではありながら、画面に頻繁に描かれる暴力表現が非常にリアルで恐ろしいのだ。登場人物が殴られた時の顔の腫れ具合や血の流れ方が何とも本物らしく見える。これは生々しい音響の臨場感や役者の迫真の演技が関係しているように思う。そして時が止まったか如く、逃れようのない緊張感漂う役者たちの目眩くクローズ・アップの連続に、裏社会に生きる人々の本物のやりとりを疑似体験している感覚に陥る。

 初めはその徹底したリアルな暴力表現や作りこまれた裏社会に生きる人々のやりとりに度肝を抜かれ、物語に集中ができなかったが、次第に明らかになる二人の主人公ケン(カトウシンスケ)とカズ(毎熊克哉)の過去。二人が背負っているもの。お互いに啀み合い、罵倒し合いながらも、離れられず腐れ縁のように繋がり続ける男同士のどうしようなく濃い友情に、目頭が熱くなる。

 この映画の一番良いところは、友情の真実を描いていた事だ。お互いに離れられないからこそ、二人はお互いに助け合い、罵り合い、許し合う。そこに友情の美しさがある。しかし逆を言えば、真の友情とは、その密な関係から逃れられない事を意味する。ケンとカズが背負う重要な何かは、お互いの内に知らぬ間に育まれたその密な関係を引き裂こうとする。それが二人にとっては、言いようもないほど地獄なのだ。そしてその地獄を引きずりながら、映画は怒涛のクライマックスを迎える。演出には情け容赦などない。だからこそ、この映画は一つの悲劇として完成されている。

 一人の無名監督が成し遂げた偉業は、血よりも濃い感動にあふれ、観る者の心を深く突き刺した。

(text:成宮 秋祥)




映画『ケンとカズ』
2016/日本/96分

作品解説
2015年・第28回東京国際映画祭(日本映画スプラッシュ)作品賞を受賞した、20代の新鋭・小路紘史監督の長編デビュー作。
裏社会でしか生きられない男たちの哀しい運命を、現代の社会問題である覚醒剤密売を舞台にリアルに描きだす。ケンとカズの二人は郊外の自動車修理工場を隠れみのに、覚醒剤の密売を行っている。ケンの恋人の早紀が妊娠し、カズは認知症である母を施設に入れる金が必要なことをお互いに言えずにいた。そして敵対グループと手を組み密売ルートを増やしていくが、ヤクザの追い込みもあり二人は次第に追いつめられていく……。

キャスト
ケン:カトウ シンスケ
カズ:毎熊 克哉
早紀:飯島 珠奈
テル:藤原 季節
藤堂:髙野 春樹

スタッフ
監督:小路 紘史
撮影監督:山本 周平

劇場情報
7月30日よりユーロ・スペースにて公開後、全国順次上映中。
関東では、10月8日よりトリウッド、シネマ・ジャック&ベティにて公開予定。

公式ホームページ
http://www.ken-kazu.com/

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【執筆者プロフィール】

成宮 秋祥 Akihiro Narimiya

1989年、東京都出身。専門学校卒業後、介護福祉士として都内の福祉施設に勤める。10歳頃から映画漬けの日々を送る。これまでに観た映画の総本数は5000本以上。キネマ旬報「読者の映画評」に掲載5回。ドキュメンタリー雑誌『neoneo』(neoneoWeb)に寄稿。映画イベント「映画の“ある視点”について語ろう会」主催。その他、最新映画のラジオ・トーク会を定期的に実施。

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