「美しいことは苦しいこと」
ドキュメンタリーのあるべき姿なんてものは、よくわからない。
しかしそれはときにとても恣意的で、あぶり出すような残酷さと、冷静な第三者を気取った傲慢さと共に紡がれる。あたかも神の視点のように。そうしたものがドキュメンタリーであるとすれば、これはドキュメンタリーではないのかもしれない。
この映画は、生前の山口小夜子と交友のあった松本貴子監督が、彼女と親交のあった人々の証言を集め、残された映像に触れながら「山口小夜子」を探す旅に出る。
どうして山口小夜子は、モデルの道へ進むことになったのか。トップモデルとしての階段を駆け上がっていく中での苦悩。映画、演劇、ダンスパフォーマンス、衣装デザインといった多彩なジャンルに進出し、常に時代の最先端に居続ける努力を惜しみなく続け、表現者として妥協を許さなかった彼女は、どこを目指していたのか。
そして彼女が愛した膨大な数の服やアクセサリーの遺品を開封し、山口小夜子を現在によみがえらせようと「小夜子プロジェクト」を立ち上げる。山口小夜子を追うその視線はどこまでも優しく愛おしげで、けれど生前には踏み込むことのできなかった領域に、彼女に敬意を払いながらもゆっくりと、踏み込もうとしている。
山口小夜子。
世界中の人々に“東洋の神秘”と称賛された伝説のモデル。
1970年代初頭、ハーフモデル全盛のファッション業界で、黒髪に切れ長の瞳、神秘的で妖艶な容姿、“日本人であること”を武器に、たった一人で世界に闘いを挑んだ。山本寛斎、髙田賢三、イブ・サンローラン、ジャン=ポール・ゴルチェ、枚挙にいとまない一流のファッションデザイナーに愛され、セルジュ・ルタンス、横須賀功といったトップクリエイターのミューズとなり、世界のスター、ミック・ジャガー、スティーリー・ダンと渡り合った女性。
あるデザイナーからモデルとしての絶頂をすぎたと言われたことがきっかけなのか、彼女はパリコレから去り、長年勤めた資生堂の専属モデルも降り、姿を消す。
元トップモデルとして、仕事を選び、築き上げた地位を守ることもできたはずなのに、「身体というものを考えてみたい」と未経験の前衛的なダンスパフォーマンスの世界に飛び込み、公演のため世界中を舞踏グループのメンバーと共にまわる。36歳にしてやってくれる。
45歳。10年ぶりに、イッセイミヤケのショーでランウェイを歩く彼女の姿は圧巻であった。もはやモデルという枠におさまらず、身体のありとあらゆる部分をうごめかし、彼女は表現者となっていた。
そうして、あらゆるジャンルでこれからというときに彼女はあっけなく死んでしまう。一人ひっそりと。
整備されたコンクリートの道を歩けばハイヒールは汚れないし、土ではあるけれど既に誰かが歩いたあぜみちも、まあそれなりには歩けるだろう。獣道にすらなっていない、未だ誰も踏み入れたことのない道、道ですらないその空間に踏み込んでいくのは険しく、とがった葉っぱで頬は切れるだろうし、足はずたずたに傷だらけとなるだろう。そんな傷跡は望んでいない。けれど。
「美しいことは苦しいこと」
生前、山口小夜子はそう言っていた。
孤独だけが、研ぎ澄まされた美しい景色を見せるだろう。表現者たろうとした者に平穏は許されていない。けれどその果ての果てまで見たい。
自由であれ。
表現者たれ。
生まれたからにはその生を味わい尽くせ。
彼女は人前に立ち、大きく旗を振り、革命を志したわけではない。声を荒げることなく最後まで鈴のような声音で話し続けた。自らの内にあるものに徹底的に向き合い、自身の深淵をのぞきこみ続け、そこから示される美は死してなお、多くの人を引き寄せ続ける。
期待せずに見たのに心を奪われてしまった度:★★★★☆
(text:長谷部友子)
そうして、あらゆるジャンルでこれからというときに彼女はあっけなく死んでしまう。一人ひっそりと。
整備されたコンクリートの道を歩けばハイヒールは汚れないし、土ではあるけれど既に誰かが歩いたあぜみちも、まあそれなりには歩けるだろう。獣道にすらなっていない、未だ誰も踏み入れたことのない道、道ですらないその空間に踏み込んでいくのは険しく、とがった葉っぱで頬は切れるだろうし、足はずたずたに傷だらけとなるだろう。そんな傷跡は望んでいない。けれど。
「美しいことは苦しいこと」
生前、山口小夜子はそう言っていた。
孤独だけが、研ぎ澄まされた美しい景色を見せるだろう。表現者たろうとした者に平穏は許されていない。けれどその果ての果てまで見たい。
自由であれ。
表現者たれ。
生まれたからにはその生を味わい尽くせ。
彼女は人前に立ち、大きく旗を振り、革命を志したわけではない。声を荒げることなく最後まで鈴のような声音で話し続けた。自らの内にあるものに徹底的に向き合い、自身の深淵をのぞきこみ続け、そこから示される美は死してなお、多くの人を引き寄せ続ける。
期待せずに見たのに心を奪われてしまった度:★★★★☆
(text:長谷部友子)
『氷の花火 山口小夜子』
2015年/日本/97分/カラー
作品解説
2015年/日本/97分/カラー
作品解説
1970年代初頭に、日本人であることを武器に世界に挑んだ伝説のモデル、山口小夜子。その活躍はモデルの枠を飛び越え、様々なジャンルへと広がり、常に最先端の美を追求し続ける世界基準の表現者でありつづけた。そんな山口小夜子の知られざる実像に、生前、彼女と交友のあった松本貴子監督が、様々な関係者の証言や、没後8年を経て開封された彼女の遺品の数々、さらには残された貴重な映像を通して迫っていく人物ドキュメンタリー。
出演
山口小夜子
天児牛大
天野幾雄
生西康典
入江末男
大石一男
大塚純子
掛川康典
ザンドラ・ローズ
下村一喜
セルジュ・ルタンス
ダヴェ・チュング
高田賢三
高橋靖子
立花ハジメ
富樫トコ
富川栄
中尾良宣
藤本晴美
出演
山口小夜子
天児牛大
天野幾雄
生西康典
入江末男
大石一男
大塚純子
掛川康典
ザンドラ・ローズ
下村一喜
セルジュ・ルタンス
ダヴェ・チュング
高田賢三
高橋靖子
立花ハジメ
富樫トコ
富川栄
中尾良宣
藤本晴美
松島花
丸山敬太
山川冬樹
山本寛斎
丸山敬太
山川冬樹
山本寛斎
スタッフ
監督: 松本貴子
プロデューサー: 於保佐由紀
撮影: 岸田将生
編集:前嶌健治
音楽: 久本幸奈
音楽プロデュース: 井田栄司
整音:高木創
配給:コンパス
公式ホームページ
http://yamaguchisayoko.com
劇場情報
アップリンク 2016年1/30(土)より公開中
下高井戸シネマ 2016年4/2(土)より公開予定
他全国順次公開中
監督: 松本貴子
プロデューサー: 於保佐由紀
撮影: 岸田将生
編集:前嶌健治
音楽: 久本幸奈
音楽プロデュース: 井田栄司
整音:高木創
配給:コンパス
公式ホームページ
http://yamaguchisayoko.com
劇場情報
アップリンク 2016年1/30(土)より公開中
下高井戸シネマ 2016年4/2(土)より公開予定
他全国順次公開中
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