2016年2月10日水曜日

山形国際ドキュメンタリー映画祭 《映画批評ワークショップ体験記》 vol.2 text佐藤 聖子

【その2】 映画批評ワークショップ&山形まなび館


〈2015年10月9日〜10月12日 ワークショップ〉 映画、そして書く!
9日朝、山形まなび館にて、講師・参加者の顔合わせとオリエンテーションが行われました。

ワークショップ初の試みとして、国際交流基金アジアセンターと共催し、東南アジアからの参加者を募っており、タイ、フィリピンから3名の若手ライターが参加していました。
国際交流基金の方もいらして「ワークショップを通じてアジアの文化的交流を深める」ことについてのお話を伺いました。

講師のクリス・フジワラ先生は、映画祭の公式カタログでも論述しておられますが、西洋とアジアの映画批評の間に広がる断絶、英語以外の言語で執筆活動をしている者たちの言語的孤立について問題提起をされています(山形国際ドキュメンタリー映画祭2015公式カタログ114ページ参照)。

ワークショップを始めるに当たり、「世界に通用する映画批評をアジアから発信してゆく」という壮大なヴィジョンが語られる中、私は場違いなところへ来てしまったかも……と小さくなっておりました。そこへいきなり、
「佐藤さん、ワークショップの最終目標は?」
金子先生、ここで振ってきなさるなんて!
咄嗟に口から出たのは「みなさんが、どんなことを考えているのか知りたいです」
自分でもガーンとなってしまうような……まるで子どもみたいな返答です。

その時の自分は小さくなりながらも、色々な職種や関係者(山形市民の方も含めて)が、さまざまな形でこの映画祭に関わっていることに感じ入っていたのです。
「きっと、一人一人がそれぞれの文化を持っているんだろうな」という考えが勝手に膨らんで「グローバルな文化交流も、電車内で人とぶつかって会釈し合うのも、すべてが異なる文化に生きる人と人との交流みたい」と嬉しくなり、「人の数だけ文化がある不思議」に想いを馳せていたのです。
それがなぜか前述の発言となって出てしまったのでした(言い訳ですが事実です)。

海外からの参加者3人はクリス・フジワラ先生、大学生の女性2人は北小路先生がそれぞれ担当され、大学4年生の男性(仮称Aさん)と地元山形から参加されている女性(仮称Bさん)、私の3人は、金子先生に担当していただくことになっていました。3グループに分かれて別々の小部屋へ。

ワークショップは、「映画を見て文章を書く」それに尽きます。
1日1本以上の映画を見て、1000字前後の文章を書くのですが、どの映画を見るかは自由です。
結果、1日2時間のワークショップと、参加を指示されたプログラム以外は個人行動になります。それぞれが自分の選んだ映画を鑑賞し、文章を書き、提出します

「見たい映画と文章にできる映画は違うんだな。初心者には映画の選び方も大事な要素なんだ」と気づいたのは、ワークショップも終了してホッとした後のことでした。

さて「金子クラス」のメンバーです。
学生のAさんは、色々な文章を書いていらっしゃるようでした。
Bさんは、ほとんど書いたことがないとのこと。
私もほとんど書いたことがありません(昔、童話を少しばかり)。

ちなみに選考通過した理由について、バラしていいのか不明ですけれども。
Aさん「文章力があり内容もレベルが高い」
Bさん「ぜひ参加して欲しかったんですよね」
私  「佐藤さんは経歴。福祉やアラブね」
  ……得心がいくとはこういうことでしょうか。

そして、一人一人に対し、金子先生から指示がありました。
「Aくんは別枠」と、彼にだけ条件が課せられます。
誰かの言葉等の引用はなし。他作品との比較もなし。自分の言葉だけで書く。というような条件だったと思います(そもそも先生とAさんの会話の速度についてゆけません)。 

Bさんには、文章を書く上での基本的レクチャー。
「起承転結、それぞれ200字ずつ書けば800字になる。
 始まりは大事。印象的なフレーズで、続きを読みたいと思わせる。
 最後はなんか良いこと書いて、じーんと余韻が残るような終わりにすれば、  
 それでもう一本になるから」
ざっくりとしたご説明ではありますが非常に分かりやすく、文章を書く上での基礎の基礎を初めて教わった気がしました。

で、私は?
「とりあえず書いてみて」
  ……クールな金子先生なのでした。
「cool」はいやだな。「sharp」ならいいけど。by金子先生)

書き上げた原稿は夜中の12時までに、メールで金子先生に送付します(ホテルの部屋からはネットに繋げられないので、ロビーまで降りなければならず……)。
そして、翌日午前のワークショップで、先生から講評という名のダメ出しがあり、即行リライトです。それを最終稿として、その場で提出しなければなりません。
映画を見て、その日のうちに原稿を書くだけでも「ひょえー」となっていましたが、1時間程度でリライトするなんて!

「そもそも映画の感想文とレビューと批評の違いって何?」レベルの私には、自分の書いている文章がどういう種類のものかも、全く分かりませんでした。

午前のワークショップで原稿を提出した安堵に浸る暇もなく、午後から映画鑑賞&さらに書く!

このスピード感、若者ならいざ知らず、私にはめちゃくちゃハードです。
それが4日間続くのです。
「まるで虎の穴だよ〜」と思わずにはいられない濃厚な体験でした。

 ☆山形まなび館☆
 ワークショップ会場である「山形まなび館」は、もとは小学校だったところを地域に開放して色々な催しを行っています。
 海外からの参加者たちも、この会場のあちこちに興味を持ったようでした。


画像提供:山形まなび館

小学校時代の机や椅子が、そのまま置いてあり、懐かしくなって座ってみました。
小学生ってこんなに小さいんだ、と思いながら机の落書きを読んだり、教室の雰囲気を味わいました。
騒いで先生に叱られる子や、真面目にお掃除する子が、ここにもいたんだと思い浮かべていたら、こぼした牛乳を拭いた雑巾の臭いまで思いだされました。

画像提供:山形まなび館

現地から山形出身のお友だちにハガキを出しました。
東京に戻ったあと、お返事メールが来ました。
「今山形にいるの?
 三津屋っていうお蕎麦屋さんがおいしいですよ。
 山形まなび館は、私が出た小学校よ。
 観光施設になってるから、お暇があったらどうぞ。
 駅の近くすずらん街のホテルサンルートの前の路地あたりで私は産まれたの。石碑がたってる。(それはウソ)」

彼女の出身校と知らずに、そこでウンウン唸りながら数日間文章を書いていたことが、人生のちょっとした「おもしろご縁」に感じられました。
冬になると日直が地下からストーブに使う石炭を運んでいたとか、トイレの花子さん的怪談話があったとか、後から話を聞かせてもらいました。
2年後は、小学生だった頃の彼女の面影を探して、山形の街を歩いてみようと思います。

映画批評ワークショップ参加者がリライトを重ねて書いた最終原稿は、冊子になるとのことです。
私は『桜の樹の下』について書きました。冊子になった際にはご報告致します。お読みいただければ嬉しく存じます。

苦闘度またはスピー度:★★★★★
(text: 佐藤聖子)

関連レビュー:
*山形国際ドキュメンタリー映画祭 《映画批評ワークショップ体験記》 vol.1
text佐藤 聖子
http://kotocine.blogspot.jp/2015/11/vol1-text.html

*山形国際ドキュメンタリー映画祭2015訪問記」
text 高橋 雄太
http://kotocine.blogspot.jp/2015/10/2015text.html


ヤマガタ映画批評ワークショップ

●10月9日-12日 [場所]山形まなび館

今回で3度目の開催となる、ヤマガタ映画批評ワークショップ。山形国際ドキュメンタリーにて、映画祭というライブな環境に身を置きながら、映画についての思慮に富む文章を執筆し、ディスカッションを行うことを奨励するプロジェクト。
応募して選考を通った若干名の参加者は、プロの映画批評家のアドバイスを受け、参加者が執筆した記事は、映画祭期間中に順次発表される。
※開催中にヤマガタ映画批評ワークショップの批評文がUPされた〈YIDFF live!〉

参加者はこのプロセスを通じて、ドキュメンタリー映画をより深く、より広い視点から理解することを可能にする映画批評の役割について考察、実践することになる。

今回は初の試みとして、国際交流基金アジアセンターと共催し、東南アジアからのワークショップ参加者を募る機会を設け、関連したシンポジウムも開催する。

ワークショップの使用言語は英語・日本語で、講師となる批評家はクリス・フジワラ、北小路隆志、金子遊の各氏。


山形国際ドキュメンタリー映画祭2015
●10月8日(木)〜15日(木)
公式ホームページ:http://www.yidff.jp/home.html

山形まなび館
公式ホームページ:http://yamagatamanabikan.jp/

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