2015年10月15日木曜日

第16回東京フィルメックス 特集記事vol.3《ラインナップ記者会見取材》(ピエール・エテックス特集上映、フレンチタッチ・コメディ!、松竹120周年祭編) text藤野 みさき

(写真中央:園子温監督)

 《映画の未来へ》を主題に、東京フィルメックスは、アジアの映画作家を育てる映画祭として、これまで数々の映画監督を世界に発信し続けてきた。『ふたりの人魚』で第1回目の最優秀作品賞を受賞した中国のロウ・イエ監督、第63回カンヌ国際映画祭においてパルムドールに輝いた『ブンミおじさんの森』のアピチャッポン・ウィーラセータクン監督。そうしたカンヌ国際映画祭を始めとする、数々の国際映画祭という世界の舞台で飛躍する作家たちの作品を日本でいち早く上映する東京フィルメックス。2000年に創立された本映画祭は、今年で第16回目を迎える。


(写真:ヌーレディン・エサディ氏)

ピエール・エテックス特集上映


 東京フィルメックスは、主軸であるコンペティション部門の他に、特別招待作品、特集上映と、主に三つの項目が設けられている。本年の特集上映は、本映画祭のメインビジュアルにもなっている、フランスの映画作家、ピエール・エテックス。カンヌクラシックスでも上映が行われた彼の貴重な二作品である『ヨーヨー』と『大恋愛』がデジタル・リマスター修復版として美しくスクリーンに蘇る。
 ピエール・エテックスは、その特異な才能を持ちながらも、作品の権利関係の問題があり、長い間本国であるフランスを始めとする多くの国々でも紹介することの出来ない映画作家であった。映画監督の枠に留まらず、俳優、脚本家、音楽家、イラストレーター、そして道化師と様々な顔を持つアーティスト、ピエール・エテックス。そんな多彩なエテックスを「彼を定義すのに最もふさわしい言葉は道化師かもしれません」と、フランス大使館映像放送担当官のヌーレディン・エサディ氏は述べる。又、ピエール・エテックス本人の人柄についても「稀に見る優雅さ、類希なユーモアのセンス、そして常に自分の仕事に情熱を傾ける姿勢に深く感銘を受けました」と言葉を続けた。
 チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド、そして、ジャック・タチ。喜劇王である彼等の後継者とも呼べるピエール・エテックスの世界を、この機会に是非堪能したい。

フレンチタッチ・コメディ!


 
アンスティチュ・フランセ東京では、ピエール・エテックス特集上映に伴い、連動上映として「フレンチタッチ・コメディ!」を開催する。東京フィルメックスで上映される『ヨーヨー』『大恋愛』他のピエール・エテックス監督作品や、1930年代から現在に至るまでのコメディ映画を中心に特集が催される。又近年では、コメディアンの俳優達が監督業を務めることも多くなったフランス映画。古典では「エルンスト・ルビッチのフランス人の兄である」とフランソワ・トリュフォー監督が評した、『とらんぷ譚』のサシャ・ギトリ監督を始め、近年では『さすらいの女神(ディーバ)たち』で監督としても活動をするマチュー・アマルリックに、『やさしい人』で主演を務めたヴァンサン・マケーニュなど、多彩な活躍をする俳優をテーマに当てた作品が出揃う予定であり、こちらも年末まで楽しめる特集上映となっている。


松竹120周年祭


 そして最後に、10月10日(土)〜10月30日(金)、11月21日(土)~11月27日(金)まで東劇で開催される、松竹120周年祭も見逃せない永遠の名画が揃った。満を持してのジャパン・プレミアとなる、小津安二郎監督の『晩春』と溝口健二監督の『残菊物語』。その他、『東京物語』『彼岸花』『お早う』『秋日和』『秋刀魚の味』の計6作品の小津安二郎監督の作品に加え、木下恵介監督、高峰秀子主演の『カルメン故郷に帰る』、大島渚監督の『青春残酷物語』がデジタル修復版となって一挙に上映される。

 古今東西、現代の新しい才能との出会いを始め、フランスのコメディ映画に、美しく復元された日本の名画との再会。本年もすばらしい映画が出品された、東京フィルメックス。この秋はしばし名画の芳香に心酔してしまいそうである。

ラインナップ充実度:★★★★★
(text・写真:藤野 みさき)


関連レビュー:




第16回東京フィルメックス

2015年11月21日(土)〜29日(日)まで開催。「映画の未来へ」--いま世界が最も注目する作品をいち早く上映する国際映画祭です。アジアの若手によるコンペ部門、最先端の注目作が並ぶ特別招待作品の上映。特集上映のひとつはフランスのピエール・エテックス。

公式ホームページ


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PROFILE:ピエール・エテックス Pierre Étaix


1928年生まれ。
漫画家、イラストレーターとして生計を立てていたところにジャック・タチの『ぼくの伯父さんの休暇』と出会い、映画の道に進むことを決意。『ぼくの伯父さん』(58)の撮影現場では助監督や俳優を務めたほか、世界的にも有名なポスターをデザインした。その後、アカデミー賞短編映画賞を受賞した『幸福な結婚記念日』(62)などの短編を監督し、『Le Soupirant』(62)で長編デビュー。同作はベルリン映画祭のコンペティションコンペティション部門で上映され、『女はコワいです』という邦題で日本公開もされている。

1964年にはサイレント喜劇のスタイルを踏襲し、子どもの頃に道化師に憧れた自身の体験を色濃く反映した『ヨーヨー』を発表。カンヌ映画祭のコンペティション部門で上映された。トリュフォーは「すべてのショット、アイデアが好きな美しい映画。多くの事を私に教える」と絶賛している。四作目となる代表作『大恋愛』(69)もカンヌ映画祭のコンペで上映され、大きな話題を呼んだ。

その後、長編劇映画の演出から離れる。同時に権利関係の複雑さから、フランス国内でも長らくエテックス作品は上映機会に恵まれなかった。その間も、エテックスの作品を強く支持する映画作家の作品に俳優として出演を続ける(大島渚『マックス・モン・アムール』、アキ・カウリスマキ『ル・アーブルの靴みがき』など。『フェリーニの道化師』では本人役で出演。)2009年にはミシェル・ゴンドリーやミシェル・ピコリ、デヴィッド・リンチ、ウッディ・アレンなどの多くの著名な映画人や映画ファンが、エテックスへの権利返還を求める陳情の署名活動を行った。

2007年には『ヨーヨー』が、2010年には『大恋愛』がそれぞれデジタル復元され、カンヌ映画祭クラシック部門で上映され好評を博した。またパリでは特集上映と合わせてエテックスのイラストや撮影した写真で構成された展覧会が開催された。世界各地で再評価の機運が高まっている喜劇映画の名匠であり、多彩な才能を誇るマルチクリエイターである。

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