2015年9月23日水曜日

PFFアワード2015 Bプログラム~映画『ゴロン、バタン、キュー』text大久保渉

「ふらりふらりと」


大阪は釜ヶ崎で暮らすホームレスの若者の青春を描いた今作。監督ご自身は「エピソードを詰め込みすぎました」とおっしゃっていたが、私はむしろその雑多な寄り道こそが今作の最大の魅力なのだと思っている。ふらりふらりとお話が転がっていくところが、家のない若者の実態と重なっているようでいてとても面白かった。


急造のボロ小屋でおっちゃんと一緒に暮らす朗らかな日々、そこにやってきた美女への淡い恋、若者と実父との確執、ホームレス狩り中学生との小競り合い、おっちゃんとの関係の変化、美女へのやるせない想い、等々。

54分という上映時間では確かに描き切れていないところも多々見受けられたが、それでも何かがありそうで、でも無さそうで、でもとにかく歩き続けることが生きていくことなんだっていう不思議なパワーが強く伝わってくる映画であった。

大切なものがないからこそ、誰かに対してこの上もなく優しくすることができるのかもしれない。失うものがないからこそ、誰かをこの上もなく愛することができるのかもしれない。居場所がないからこそ、誰よりも力強く新たな一歩を踏み出せるのかもしれない。

もともと釜ヶ崎、西成地区といった未だに物騒なロケーションを生かした映画を撮りたいということから始まった企画だけあって、ホームレスの一日の生活描写や繁華街での危険な雰囲気、シリアスな展開が非常に丁寧に描かれているように感じられた。そしてそれだけ現実に迫った映画であるからこそ、画面からこぼれ落ちた温かみにかけがえのない価値が感じられた。

笑えて切ない若者の成長物語。人が悩み迷いながらもしたたかに生きていくすがたを勢いよく描き出した良作であった。

とりあえず勢いと雰囲気がよかった度:★★★★☆
(text大久保渉)

『ゴロン、バタン、キュー』

2015年/日本/54分/カラー

作品解説

「大阪は釜ヶ崎が舞台。淀川の河川敷に元日雇い労働者の佐々木さんが作ったハウスに同居する、あたる。空き缶回収に精を出して日銭を稼ぎ、あたるは生まれて初めて自由を知る。そして魅力的な女性の出現により、あたるの世界は少し広がるのだが…。」

出演

山元 駿、伊藤隆幸、瀬戸田晴、鈴木ただし、大西政子、北村佳佑、榊 颯馬

スタッフ

監督・脚本:山元環
撮影:辻祐太郎
録音・美術:塩田佳代
美術:見城眞介
照明:藤原貴大

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ぴあフィルムフェスティバル(PFF)
"映画の新しい才能の発見と育成"をテーマに、1977年にスタートした映画祭。いままでに数々の監督を排出している。現在では、公募した作品から入選作品を選出する映画コンペティション「PFFアワード」を中心に、特集上映や、トークショーなどのイベントも行われている。また、PFFアワードでグランプリ等の賞を受賞した監督はPFFスカラシップの権利を獲得でき、劇場用映画監督デビューへの道が開かれる。

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