2015年9月14日月曜日

PFFアワード2015 Cプログラム 〜映画『嘘と汚れ』/『わたしはアーティスト』text今泉 健

「ヒエラルキーはエネルギー源か」


この2作品は対照的に見えて共通点がある。
どちらも集団内のヒエラルキーが話の起点になっているのだ。

『嘘と汚れ』は会社内のヒエラルキーで最下位の二人の話だ。
若い女性と老人はどちらとも立場が弱い。社会問題の縮図のような設定だが、若干女性の方が優位。何かことが起これば全て特定の誰かのせいというのは、よろしくないが人が群れるとありがちだ。これは確実にいじめである。しかし、世の中、完全無欠の人間はいないように、一方的にどちらかが良くてどちらかが悪いというのはまずありえない。苛められる側にも理由はあるが、クビに追い込まれるのは行き過ぎだ。病んだ集団である。こういう集団は1人いなくなれば、また1人標的を作り出す。次は主人公の女性かもしれない。



『わたしはアーティスト』は学級ヒエラルキーに端を発する。この男女二人も学級ヒエラルキーでは最下位かもしれない。
ここで面白いのは男女の行動の対比。似たような立場の二人だが行動が違う。女子は、アーティストだがやはり打算的、現実的だ。寄り添った時、絵的に格好がつかないと客観的に思っても、行けそうなところで手を打とうとする。片や男子は、妥協がない。これは異論もあるだろうが、モテない男子ほど、程良いところで手をうたない。自分の好みに忠実でこだわるのだ。(妙に力が入ってしまう…)。むしろ、こだわらないのはモテる男子だ。モテる分経験値が高く、余裕があり考え方が柔軟でこだわらない場合がある。



 実生活ではヒエラルキーにあまり良いイメージはないが、こと創作については、特に現代日本において発想の源になり得るということか。『桐島、部活やめるってよ』(2012 吉田大八監督)などはその代表例なのだろう。

 また、もう一つ共通点は、偶然が大きく作用して生まれた作品であるということだ。
 そもそも映画は偶然の連続によって作られるという言葉を聞いたことがあるが、幕間の話からこの2作はまさにそれを具現化した作品のようだ。『嘘と汚れ』は制約のある撮影下で、カット割りに時間が避けず、長回しの撮影をせざる得なくなった。このいびつさが猪狩裕子監督の感覚と相まって強烈なインパクトを生んだ。『わたしはアーティスト』は双子の女優との出会い、そして女優といかにもお似合いの男優との巡り合わせが、薮下雷太監督のディレクションで、化学反応を起こし、はじけ飛んだ作品になっている。

 ピンチをチャンスに変えた監督、好機を逃さなかった監督、どちらも次作が楽しみだ。

主人公ゆいのドロドロ度 : ★★★☆☆ (『嘘と汚れ』)  
主人公沙織の自己陶酔度 : ★★★★☆ (『わたしはアーティスト』)
 (text今泉 健)


関連レビュー:PFFアワード2015〜映画『海辺の暮らし』text宮本 匡崇

『嘘と汚れ』 

2015年/92分/カラー

作品詳細
「大道具会社が舞台。冒頭、老人と若い女性が和気あいあいと一緒に作業する長いシーンで幕開けする。その後も続く作業場の光景に観客を引き込んだうえで、小事件が起き、心理劇へと鮮やかに変貌する。」

出演
岡田瑞葉、真実一路、佐藤武史、
青坂 匡、野口 航、高橋基史、戸田 司、
八代定治、重田裕友樹、金子拓史、
亀井史興、前川桃子、三森麻美、
森山愛都子、金子るい、金子ねね、江口 信

スタッフ
監督・脚本・編集:猪狩裕子
撮影:深谷祐次
録音:宇佐希望
助監督:太田達成
制作:高橋基史、中島 光

   

    *


『わたしはアーティスト』

(PFFアワード2015 プログラムC)
2015年/24分/カラー

作品詳細

「私は2年C組、尾崎沙織。抑圧と孤独を表現するため自分を撮る」。誰もいない教室で机に立って踊る私。自分で髪にハサミを入れる私。誰も私を理解してくれないと思っていたのに、「尾崎さんて変わってるよね」と言われた瞬間、世界は色づく! ひとりよがりを客観視する洞察力に、随所で笑わせられる。

出演
尾崎 紅、高根沢光、尾崎 藍、長岡明美、
安川恵理、小徳彩夏、宮本彩佳

スタッフ
監督・脚本・撮影・編集:籔下雷太
録音:古坂圭佑、小原 誠
美術:村澤綾香、安川恵理
照明:赤坂将史、中川奈月、岡田直哉
音楽:半野喜弘、大石峰生
制作:八重樫亮介、菊竹洋平、今野雅夫、
    赤穂良晃、松本 麗

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ぴあフィルムフェスティバル(PFF)
"映画の新しい才能の発見と育成"をテーマに、1977年にスタートした映画祭。いままでに数々の監督を排出している。現在では、公募した作品から入選作品を選出する映画コンペティション「PFFアワード」を中心に、特集上映や、トークショーなどのイベントも行われている。また、PFFアワードでグランプリ等の賞を受賞した監督はPFFスカラシップの権利を獲得でき、劇場用映画監督デビューへの道が開かれる。

公式ホームページ:http://pff.jp/jp/index.html

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