2015年9月1日火曜日

映画『インサイド・ヘッド』text今泉健

「真意は何処に」


 予告編を見たときから、「子供向きじゃないでしょこの題材」と思っていた。だから、「あなたの物語」というキャッチコピーになるんだろう。昔子供だった人、つまり全ての人へ、というわけだ。脳の中の旅だから、記憶が捨てられる場所や、深層心理なんて場所まで紹介されるのだ。抽象概念の部屋なんて理解不能だ、と思っていたら、作品を観てみると一番コミカルで面白い描写にしていた。子供には大ウケだろう。このあたりがディズニー/ピクサーの底力に思える。さらに、芸達者のコメディアンたち、エイミー・ポーラー、リチャード・キングなどが声を当てていて、字幕で例え英語がわからなくとも、子供が楽しめる作品になっている。いかにも欧米的なのは「イマジナリーフレンド(空想上の友達)」が活躍するところで、これがキーパーソンだった。空想上の友達は、5歳くらいまでの子供の成長の過程で必要だと考えられていて、成長と共に消えていくものとされている。でも、主人公である11歳の女子小学生、ライリーの脳の中ではひっそり生きていたわけだ。

 やはり、冒頭のドリームズ・カム・トゥルーの楽曲「愛しのライリー」は拍子抜けだった。この作品の主人公は感情たちであって、その持ち主ではない。それは監督も明言している。普段は日の当らない裏方たちにスポットライトをあてたような清々しさがあるのだ。だから、映画の冒頭で「♪ライリー ライリー♪」という、感情の持ち主の名を連呼するあの歌は、楽曲やパフォーマンスの以前に、話からずれた感覚を残してしまうのだ。そういえば、タイトルも日本は『インサイド・ヘッド』と感情たちの居場所を示しているが、原題は『Inside Out』(裏返し)と、話の内容から来ている。ちなみにフランスでは『VICE-VERSA』(逆もまた真なり)、スペイン語圏では『DIVERTIDA MENTE』(愉快な感情たち?)。題名も含めやはり日本版は、他の国と様相が違っているようだ。

 そして、この作品は深淵な問題にも踏み込んでいる。心脳問題(※1)というらしい。要は、脳の働きはまだ科学で解明されていないので、心が脳の働きによって作られることが証明できていないそうだ。哲学者も科学者もいるその論壇では、心と脳が分かれている二元論、一つだとされている一元論とか、自然科学的なアプローチの唯物論とか様々論じられているらしい。そして、まるで心脳問題が解明されていない状況そのままを現しているかのように、この作品のビジュアルからみた宣伝活動には、はっきり言って一貫性を感じない。いや、敢えてそうしているかのようにも見える。例えばインターナショナル版のティーザーポスターは、影絵のような、首から上の頭部の側面の中にJoy(黄)、Sadness(青)、Anger(赤)、Fear(紫)、Disgust(緑)とそれぞれのEmotionがいる状態を示している。本国でも頭部が示されているティーザー広告はあるが、その他多くのビジュアルは、主役の感情たちのキャラクターを中心にしている。そしてキャッチコピーは”MEET THE LITTLE VOICES IN YOUR HEAD”「君の頭の中(記憶?)で会おう」としながらも、〈Docter and Rivera stressed that Inside Out takes place in Riley’s “mind,” not her brain〉(※2)、つまり「この映画の出来事は、ライリーの脳内ではなく、心で起きていること」と監督は強調している。極めつけは、邦題を『インサイド・ヘッド』としつつ、メインビジュアルをインターナショナル版のティーザー風にして、脳の働きのようなイメージを強調していることだ。ちなみに、フランス版ポスターのメインビジュアルは日本とほぼ同じ、スペイン語圏版は各エモーションが一緒にジェットコースターに乗っている、本編にはない謎なビジュアルだった。

 やはり子供向き「だけ」ではない作品だ。


※1 関連記述 「精神科医としての心の部屋」中島英雄
  http://nakajima-lab.jp/ 

※2 Pixar’s ‘Inside Out:’ New Info on Plot, Characters, and Locations [Video Blog]

  http://www.slashfilm.com/pixars-inside-new-info-plot-characters-locations-plus-video-blog/
   

その他資料は
pixar wiki http://pixar.wikia.com/wiki/Pixar_Wiki


イマジナリーフレンドの活躍度:★★★★☆
(text今泉健)


『インサイド・ヘッド』

2015年/アメリカ/94分

作品解説

11才の女の子、ライリーの頭の中に存在する5つの感情、ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、そしてカナシミは、ライリーを幸せにするために日夜大奮闘していた。
ところが、見知らぬ街への引っ越しで、ライリーは心のバランスを崩してしまう。
そのため、頭の中の“司令部”からヨロコビとカナシミが放り出され、ライリーは2つの感情を失ってしまったのだ。感情たちは、ライリーを危機から救うために立ち上がった!
そして、ライリーを悲しませることしかできないため、謎に包まれていたカナシミには、驚くべき「秘密」があった…。

声の出演

ヨロコビ:エイミー・ポーラー/竹内結子
カナシミ:フィリス・スミス/大竹しのぶ
イカリ:ルイス・ブラック/浦山迅
ムカムカ:ミンディ・カリング/小松由佳
ビビリ:ビル・ヘイダー/落合弘治
ライリー:ケイトリン・ディアス/伊集院茉衣
ビンボン:リチャード・キング/佐藤二朗

スタッフ

監督:ピート・ドクター
共同監督:ロニー・デル・カルメン
脚本:ピート・ドクター
   メグ・レフォーヴ
   ジョシュ・クーリー
製作:ジョナス・リベラ
製作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:マイケル・ジアッチーノ

公式ホームページ

劇場情報

TOHOシネマズ新宿ほか全国で上映中


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