2015年9月2日水曜日

映画『チャルラータ』試写text 大久保 渉

「心の奥底にふっと迫ってくる」


画面に映ったすべての瞳の奥底に、ことばにできない想いが込められていた。

憂いを帯びた瞳には、ことばにできない哀しみが。活気に満ちた瞳には、ことばにできない喜びが。鋭く光った瞳には、ことばにできない憤りが。一言で言いあらわすことができない感情の数々。想いをただひたすら瞳で訴えかけてくる登場人物たち。それは舞台となったイギリス植民地時代末期のインドという、自身の気持ちを軽々しく口にすることが憚られた慣習が関係していたことではあるのだろうけれども、ただそれ以上に、今この瞬間の気持ちが何なのか、この感情をどのようにしてことばにすることができるのか、溢れる想いが口から出てこない、そんな誰しも抱えたことのある感情の高ぶりが繊細な構図と詩的な映像によって表現されていたところに、私は心打たれてしまった。



「愛している」、「ありがとう」、「ごめんなさい」、そうしたことばだけでは伝えきれない想いがある。あるいは、そんな一言さえも口にすることができない瞬間がある。そんなときに、お互いが通じ合うためにはどうしたらいいのか。その答えの一片が、今作の中で描かれていたように感じられた。

仕事で忙しい夫と、徒然なるその妻。そしてそこにやってきた、奔放な性格をした夫の従弟。お互いがお互いを見やり、あるいは目をそらしながら、日々を過ごしていく。妻と従弟、ふたりの間に生まれた気持ちは、友情なのか、愛なのか。そんなふたりを見つめる夫に生じた感情は、果たして嫉妬なのか、無関心なのか。彼らがその時々に何を思っていたのか。カメラは台詞を拾うのではなく、彼らの日常的な振舞いを、表情を、その瞳をただじっくりと映していく。そして、映画の最後―画面に映し出された男と女、お互いに近づきあって手をとりあい、想いを通わせるようにたたずんでいる二人の姿を見ては、ことばにできない感動を覚えた。映画が心の奥底にふっと迫ってきて、思わず涙が溢れ出てしまったのである。

ことばにできない感動!度:★★★★★
(text:大久保 渉)




『チャルラータ』

1964年/インド/119分/B&W/ベンガル語/DCPリマスター
★ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞(1965年)

ストーリー

1880年、インド・カルカッタ。若く美しい妻チャルラータは、新聞社の代表兼社長であるブパチを夫にもち、何ひとつ不自由ない生活を送っていた。しかし、夫は年中多忙で、ほとんど妻とともに過ごそうとしない。そんな中、大学の休暇で夫の従弟であるアマルが訪ねて来る。快活な性格で、詩吟を楽しみ、文学に詳しいアマルの出現は、次第にチャルラータの退屈な日常を彩っていく…。

出演

マドビ・ムカージー、ショウミットロ・チャタージ、ほか

スタッフ

原題:CHARULATA
原作:ラビンドラナート・タゴール
監督・脚色・音楽:サタジット・レイ
撮影:シュブラト・ミットロ
美術:ボンシ・チャンドログプタ
出演:マドビ・ムカージー、ショウミットロ・チャタージほか
配給:ノーム、サンリス
配給協力・宣伝:プレイタイム


公式ホームページ:http://www.season-ray.com/

劇場情報:9月12日よりシアター・イメージフォーラム、ほか全国順次公開

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